ボツリヌス療法 (ボトックス注射)

今日は、以下の手術を行いました。
・白内障手術 14件
・網膜硝子体手術(茎離断) 2件(黄斑円孔1例、糖尿病網膜症1例)
・水晶体亜脱臼に対する硝子体切除、眼内レンズ縫着 1例
みなさん無事に終わっています。
この間から、新しい手術装置での手術に切り替わっているのですが、ビックリするくらいの性能で、よい成績が期待でき、手術が楽しいです[:グッド:]
(コンステレーション ビジョンシステム;2011.12.08 Thursday
;http://blog.sannoudaiganka.jp/?cid=4995)
ただ、器械を使う前の準備が今まで以上に大変で、手術患者様の入れ替えに時間がかかり、今日はスタッフ全員が少し残業になってしまいました。みなさん、ごめんなさい。だんだん慣れてくるかと思うのですが・・・。

さて、今日は一昨日、昨日と記載した、「片側顔面痙攣」「眼瞼痙攣」で記載した、ボツリヌス療法についてです。

ボツリヌス療法(ボトックス注射)

自然界にはボツリヌス菌という菌がいまして、その菌は、ボツリヌス毒素という筋肉を麻痺させる毒素を作り出します。ボツリヌス菌は、土の中にいることが多く、調理の途中で食べ物を落としてしまい、それを食べてしまった場合に、食中毒を起こしてしまった場合や、怪我をした傷口から毒素が入ってしまった場合に問題を起こします。
体の中に入ったボツリヌス毒素によって、体中の筋肉が麻痺してしまうと、手足が麻痺したり、離せなくなったり、重症の場合には呼吸が止まってしまうため、命にかかわる食中毒です。
ハチミツの中にも毒素が混入している場合があり、1歳未満の子供にハチミツを食べさせていけない。というのはボツリヌスのせいなのですが、ご存知でしたか?

このボツリヌス毒素の一種を、医学の治療に用いるのですが、その薬の名前が「ボトックス」になります。
眼科では、「片側顔面痙攣」「眼瞼痙攣」に使用するのですが、自分の意思に反して、勝手にピクピクと痙攣してしまう筋肉(表情筋や眼輪筋)に、直接注射をして、麻痺させてしまう治療です。
病気の大もとは、脳や、脳から筋肉に信号を伝える顔面神経になりますが、脳や神経を直接治療する訳ではなく、脳や神経の状態はそのままで、最後の筋肉の動きだけを止めるという、対症療法と呼ばれる治療法です(根治ではなく、症状を和らげるだけ)。

実際の治療

?申し込み
ボトックスは、劇薬・毒物にあたり、法律で使用方法が定められています。病院に在庫を保管してはいけない薬のため、治療をする1週間程度前に申し込みをしていただき、その後に治療する病院に薬が配達されます。

?同意書
定められた書類に同意書を頂く必要があります。

?麻酔
注射が痛いので、注射の前に顔を冷やすなどして、少しでも痛みを減らします。当院では、ペンレステープという麻酔のシールを、顔の注射部位に30分?1時間程度張ってから、注射をしています。

?注射
アルコール消毒後に、片目の周りに5?6箇所、眼輪筋という目を閉じる筋肉に少量づつ注射をします。(専門的には1部位に何単位などと決まっています。)
片側顔面痙攣では、頬や、口周りなどの、ヒキツレを起こす筋肉に注射をします。

当院では、30G針という、もっとも細い針での注射を行っています。
横にあるのは、麻酔のペンレステープです。

?安静
当日のみ、入浴や洗顔を控えます。
また、注射部位を押したり、もんだりしないようにします。
(薬が広がって、狙った筋肉以外に作用すると困るため)

?効果
・2?3日程度で効果が現れ始めます。
・1週?1ヶ月程度で、効果が安定します。
・その後、3?4ヶ月程度で、効果がなくなっていきます。

?再治療
効果がなくなったころに、再度注射を行います。根治術ではないので、基本的には効果がなくなったら、繰り返し注射をする必要があります。(治療はご希望の場合のみ行い、もちろん継続治療の希望がなければ、中止も可能です。)
1回目の治療を参考にして、効果が強すぎたり、弱かったりした場合には、次の治療で、薬の量を減らしたり、増やしたりして調節をしていきます。

当院では、実際には、
注射
⇒1週間後に副作用のチェックの診察
⇒1ヶ月後に効果や副作用のチェック
⇒3?4ヶ月後に、希望があれば再治療
というスケジュールで行っています。

副作用
副作用は、薬が効きすぎた場合や、予想外の部位に効いてしまうことによって起こります。
・目を閉じる筋肉に注射をしますが、効き過ぎると、目が閉じにくくなり、角膜が乾燥してしまうなどの合併症が起こります。この場合は落ち着くまでドライアイの治療が必要になります。
・注射後にこすってしまった場合などに、薬が広がってしまい、目を開ける筋肉に作用すると目が開きにくくなってしまったり、涙の排出を担当している部位に作用すると涙目になってしまったり。
ただし、副作用が起こったとしても、ボトックスの効果がなくなるころには一緒に消失してしまうため、過度に不安になる必要はありません。

費用
費用は保険で決められていますが、
1割負担⇒6000円程度、
3割負担⇒18000円程度
薬自体が約5万円ととても高価です。もう少し安くなるといいのですが。

ボツリヌス療法について書いてみましたが、顔に注射、毒素なんて聞くと、ちょっと怖くなってしまう患者さんもいるかも知れませんね。ただし、実はボトックスは眼科で使うよりも美容外科で多用される薬なのです。
頬の筋肉に注射して小顔にしたり、痙攣してなくても表情筋に注射して「シワ取り」を行ったり、多汗症などにも使います。
そう聞くと、女性の方は、注射をしてみなくなったりして??

注)当院では保険診療で行える「片側顔面痙攣」「眼瞼痙攣」に対する治療としてのみ注射を行っています。美容目的の注射はお引き受けしておりません。

ブログを書いている途中で、県南の眼科様から電話で、明日も網膜剥離の紹介がくるようです。稲敷郡。日に日に遠方からの患者様の紹介が増えています。明日も頑張ろう!

眼瞼痙攣 (がんけんけいれん)

今日は小美玉市医療センターで井上先生と、白内障や翼状片の手術をさせて頂きました。
朝はとても寒くなりましたね[:雪:]車で出勤しようとすると、窓ガラスが凍っていて、すぐに出発できなかったり。風邪に気をつけないと。

さて、昨日と同じような内容で、まぶた(眼瞼)がピクピク痙攣する病気について。

眼瞼痙攣(がんけんけいれん)
昨日の書きましたが、自分の意思で筋肉を動かすことを随意運動、意思に反して勝手に動いてしまう事を不随意運動と呼びます。
12月9日に記載した「眼瞼ミオキミア」は、ストレス・疲労・寝不足などで、主に片側のまぶたが軽くピクピク動いてしまう病気。
12月19日に記載した「片側顔面痙攣」は、脳から出たすぐの顔面神経の障害により、片側の表情筋、主にまぶた、ホホ、口などが強くヒキツレてしまうツライ病気です。

眼瞼痙攣(がんけんけいれん)は、まぶたを閉じるための筋肉(眼輪筋)が勝手に収縮しまう病気で、多くの場合は両眼に起こります。

原因
まばたきをコントロールしている脳に異常があることが推測されますが、現在の医学では明確な原因は分かっていません。
精神安定剤や、睡眠薬の内服が原因になることもあります。

症状
・目がピクピクする
・目が開けられない(開きにくい)
・目が重い
・ショボショボする
・まぶしい

などがよく聞かれる症状で、自覚症状が強いことが多いようです。
まぶしくて目が開けられない。と、運転や読書ができずに日常生活に支障がでることもあります。
ピクピクする。という、いかにもケイレンを想像させる訴えの時には、診断が簡単なのですが、開きにくい、重い、ショボショボする、眩しいなどの症状は、ドライアイで聞かれる事が多いため、残念ながら、ドライアイとして誤診されていることもよくあります。
眼科医でも積極的に治療を行っている医師が少ない病気で、上手く診断がつかずに、ドライアイとしか診断されていないと、目が開かないなんて、おかしいんじゃないか?なんて、心療内科や精神科を勧められてしまったりして、ドクターショッピングといって、いろいろな眼科を点々としてしまうこともあります。

検査
ドライアイの合併や鑑別のために、ドライアイの検査を行います。
他に、瞬目テストと言って、きちんと機能的なまばたきが出来るかどうかを調べたりします。
・早く軽いまばたきをリズミカルに10秒間できるか?
・強く目を閉じ、すばやく目を開ける動作を10回できるか?
などを観察して、途中で変に痙攣が起こらないかなどを調べます。

治療
片側顔面痙攣と同じような治療で大きく3つに分かれます。

?内服薬
精神や神経の興奮を抑える、精神安定剤や、てんかんの薬、睡眠薬を処方します。(ただし、逆に、これらの内服薬が病気の原因となることもあり、診察では飲み薬の開始時期を詳細にお聞きする事があります。)

?ボツリヌス療法
ヒキツレ・痙攣をおこす眼輪筋にボツリヌスと呼ばれる毒素を注射します。眼瞼痙攣の治療として、非常に効果が高く、多くの場合で患者様に満足して頂けます。毒素が眼輪筋を麻痺させて、痙攣を止める効果がありますが、注射の効果が3ヶ月ちょっとで切れてくると、再度注射をしなければなりません。
(詳細は別のブログを記載しようと思います。)

?外科手術
痙攣の強い部分の眼輪筋を切除してしまう方法ですが、目が閉じにくくなる。という副作用があり、超重症例で、ボツリヌス療法が上手くいかない場合に限ります。

基本的には根治術というものはなく、対症療法と言って、症状を和らげるための治療を行う事になります。
ただし、眼瞼痙攣の患者様はドライアイと誤診されている症例が多く、「とても辛いのに、どの眼科でも相手にされなかった。」といって受診される患者様が多いので、きちんと診断をつけて、ボツリヌス療法で少しでも症状が和らぐと、とっても喜んで頂けることが多く、眼科医としてやりがいのある病気です。

ドライアイと言われているけど、症状が消えない。ツライ。
素早いまばたきが出来ない。
なんていう患者様は、一度、眼瞼痙攣がないか相談されるとよいでしょう。

*眼瞼痙攣のような目が開きにくいという症状は、ドライアイ以外にも、重症筋無力症などの重篤な病気が鑑別疾患に考えられます。自己判断はせずに、眼科医(できればボトックス認定医)に相談をするようにしましょう。

片側顔面痙攣 (へんそくがんめんけいれん)

今日は以下の手術を行いました。
・翼状片手術 1件
・白内障手術 6件
・網膜硝子体手術 1件(網膜剥離)
無事に終わっています。
網膜剥離の患者様は先週反対目の手術をして、経過良好の患者様です。
今回の目は、初期の網膜剥離で、中心部も剥がれていないので、視力1.0が期待できそうです!

12月9日に、眼瞼ミオキミアについて記載しました。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?cid=5179
今日は同じ眼瞼(まぶた)の痙攣(けいれん)でも、やや重症例のお話です。

片側顔面痙攣(へんそくがんめんけいれん)
顔には、大小様々な筋肉が付いており、表情筋と呼ばれます。笑ったり、怒ったり、泣いたり。自分の意思で筋肉を動かすことが可能で、お笑い芸人さんなどは、とても豊かに表情を作ることができます。
このような動きは、自分の意思で脳ミソから、各表情筋に「動け!」という伝令が働くのですが、この脳ミソから筋肉までの伝令を担当している神経を顔面神経(がんめんしんけい)と言います。
顔面神経は、自分の意思以外でも、乾いた時に瞬きをしたりと、脳ミソが勝手に行っている伝令、運動もあります。

自分の意思で筋肉を動かすことを随意運動、なんらかの原因で自分の意思に反して運動が起こってしまう事を不随意運動と呼びます。
眼瞼ミオキネアは疲労やストレスなどで、まぶたの筋肉のみがピクピクと動いてしまうものですが、あまり大した病気ではないことを記載しました。(2011.12.09 Friday)

顔面神経は、脳ミソ(専門的には脳幹)と呼ばれる脳の中心部から出てきて、各表情筋につながっているのですが、脳からでてきた直後の部分などで、神経に異常が起こると、自分の意思に反して、顔が片側にひきつったような状態になってしまいます。
このようばヒキツレ、ケイレンを、片側顔面痙攣と呼びます。

意図せず、目をつぶってしまったり、ほほや、口の周りがひきつれたりします。目を開きにくいという症状以外にも、整容的に見た目が気になってしまい、抑うつ気分などにつながってしまう事もあります。
ストレスによって症状が悪化する症例が多く、自分で見栄えを気にしてしまったり、病院で診察を受ける時や、写真を撮られる時などに悪化することが多いようです。

原因
多くの原因は、顔面神経が脳幹から出る部分で、異常な血管によって圧迫されるために起こることと考えられています。年齢や動脈硬化などの血流障害が元になり、子供などには少ない病気です。
ただし、非常に細かい神経や血管なので、MRIの撮影などで、明確に病変を指摘できない(見つけられない)場合も多く、原因不明とされることも多々あります。

治療
治療は大きく3つに分かれます。

?内服薬
精神や神経の興奮を抑える飲み薬や、睡眠薬を処方します。
手軽に始められる治療法ですが、残念ながら、効果が安定せず、あまりよい結果を得られることは少ないようです。

?ボツリヌス療法
ヒキツレ・痙攣をおこす筋肉にボツリヌスと呼ばれる毒素を注射します。世界的に、顔面痙攣の治療法として第一選択とされている治療法です。(標準的治療法)
非常に効果が高く、80%程度の患者様が注射により満足な結果を得られますが、顔面神経の障害を根本的に治しているわけではなく、神経の病気はそのままで、ケイレンを起こしている筋肉を麻痺させるだけの治療法です。注射の効果が3ヶ月ちょっとで切れてくると、再度注射をしなければなりません。
ボツリヌス療法に関しては、後日、詳しく説明のブログを記載しようと思います。

?脳外科手術
顔面神経を圧迫する、悪い血管を脳外科的な手術で除去する治療法です。多くの場合で、根治(こんち:完全に治る)が期待できますが、脳の手術だけあって、他の治療法に比べるとリスクが高いのが特徴です。
現在の医学では、ボツリヌス療法が効かない症例などに行われることが多いようです。

*以上はあくまで一般的なお話です。
ドライアイや、うつ、自律神経の異常などで、顔面痙攣に似た症状が出ることがあったり、同じ顔面痙攣といっても程度や状態は様々で、内服薬の治療を行う事や、初めから手術をお勧めする症例もあります。
診断や治療に関しては、ご担当の先生とよく相談するようにしてください。

眼瞼ミオキミア

師走で、何かと忙しいですよね・・・。
今日は何を書こうか迷っていると、なんだか、僕の右の下まぶたがピクピクしています。
これは、患者さんによく説明する眼瞼ミオキミア。

眼瞼ミオキミア
眼瞼(がんけん)は、まぶたのことです。まぶたの開け閉めは、自分の意思で行う事も可能ですが、普段は特に意識をしなくても目が乾かないようにと、瞬きを行う事が出来ますよね?
目が乾いてきたり、ゴミが入ったり、急に目になにかが近づいて来たりすると、脳へその信号が伝わり、目を閉じろ!という命令が折り返されて、目のまわりの皮下にある眼輪筋(がんりんきん)という筋肉が収縮して、勝手に目を閉じます。
一般的に、このような脳ミソを中心に起こる自然な瞬きの力よりは、自分の意思でまぶたを開けているぞ!という力(随意運動:ずいいうんどう)の方が強いため、目を開けていようと思えば、しばらくの間は目を開けっぱなしでいられます。

ところが何かの問題で、このような働きのバランスが崩れると、変に筋肉が収縮して、自分では開けていようと思っているのに、自分の意思に反して眼輪筋が収縮し、ピクピクとケイレンしてしまう事があります(不随意運動:ふずいいうんどう)。

このような、まぶたに起こるピクピクとしたケイレンを、眼瞼ミオキミアと呼びます。片側の下まぶたの外側で自覚することが多いようです。

ほとんどの原因は、ストレス、寝不足、眼精疲労、ドライアイなどが原因であり、若い子にも起こるので、年明け頃になると受験生がよく外来を受診します。(今日の僕はおそらく眼精疲労)

治療法としては、
しっかり休憩をとって、良く寝て、メガネの度数があっているか確認して、ドライアイがある人は点眼薬でコントロールして。このような対応で、だいたいは1日?2週間くらいで自然に治ってしまいます

なるべく早く止めたい場合には、
ホットパックで目を温めて、血流の改善を促すのもよいでしょう。濡らしてから、かるく絞ったタオルを、電子レンジでチンして、温めたものを目に5分?10分くらいのせてみましょう。

それでも・・・、と言う人は、
少し安定剤のようなものを処方したり、あまりに辛いとか、長引く場合には、ボトックスといって眼輪筋を麻痺させる注射薬を使用することもあります。

眼瞼ミオキミアは基本的には良性の病気であまり心配はありません。ただし、非常にまれですが、脳腫瘍などが原因となっていることもあるので、上記の治療などを行っても治らない、悪化していく、何度も繰り返すなどの場合には、MRIなどの検査を行って良く調べてみる必要があります。

いろいろ書いているうちに、僕のミオキミアは止まったようです。