アバスチン

糖尿病などの病気では網膜の血管が詰まってしまい、眼球内の血流が不足します。血流の不足が一定期間持続すると、網膜は十分な血液や酸素、栄養分を欲するようになり、新しい血管を生やそうとします。(新生血管;しんせいけっかん)

新しい血管(新生血管)と聞くと、なんだか血流が回復して治ってしまうのでは??なんて思ってしまいますが、残念ながら、臨時で生えてくるような血管は、ほとんどができそこないの血管で、すぐに破れて大出血を起こすなどの問題を起こします。

眼科では、新生血管が生えてこないようにするために、レーザー治療で網膜を焼くなどの治療を行うことが一般的なのですが、最近は、抗VEGF薬という薬の注射薬が、新生血管が問題となる様々な病気に使われるようになりました。
VEGFとは、日本語では血管内皮細胞増殖因子と言いますが、酸素や血液が足りないと感じた網膜が産出するホルモンです。これが引き金となって、目の中に新生血管が発生し、弱い新生血管から出血してしまうなどといった病態につながります。抗VEGF薬を投与することで、上記のような悪い流れの始まりをストップさせることができます。

今日の午後は、糖尿病による新生血管緑内障という、重症の病気の72歳女性の手術を、準緊急で行いました。
2年ほど前に、両眼の糖尿病網膜症で硝子体手術を行い、しばらく経過の良かった方なのですが、残念ながら、最近は通院が途絶えてしまい、その間にさらに病気が進んでしまったようです。
火曜日に久しぶりに診察すると、眼圧と呼ばれる圧力が40?50mmHg(正常は20以下)と非常に高くなってしまっていました。
このままでは数日など、短期間で失明してしまうので、早急な手術が必要なのですが、目の中には無数の新生血管があり、そのような状態で手術をすると、手術中や手術後に新生血管から出血して、出血が止まらなくなってしまう事が多々あります。

火曜日に撮った写真です。茶目(瞳孔・虹彩)の部分には、普通は血管はないのですが、太くて赤い新生血管がしっかりと形成されています。隅角という目の中を流れる水の出口(下の写真の茶色と白の間のあたり)にも、赤い血管が形成されています。隅角に新生血管があると、水の出口がせまくなり、眼圧が上がってしまいます。

火曜日に緊急入院して頂き、アバスチンと呼ばれる抗VEGF薬を投与しました。

これは、今朝の同じ部位の写真です。茶目にあった赤い血管は全く見えなくなっています。このようになると手術が非常に安全に出来るので、本日の午後に手術をさせて頂きました。手術中には出血は起こらず、問題なく終了することができました。明日もキレイだといいのですが、それは明日診察をしてみないとですね。

アバスチンを使うようになって、血管新生緑内障の治療や手術の成績は、以前とは比べ物にならないほど良好になってきています。
大学病院レベルでは、同じような症例がいた場合には、アバスチンを使う事が当たり前になっているのですが、なぜだか、現時点の日本ではアバスチンを眼球に使用することは認可されていません。
薬を輸入するなどして、自由診療にする病院があったり、当院ではアバスチンは全例無料で使用しています。
非常に有用な薬で、海外では普通に使用され、日本でも数年前から大学病院をはじめとして当たり前のように使われています。目立った副作用もありません。(全くないわけではありませんが、血管新生緑内障などの病気の重大さを考えれば、比べるまでもないレベルです。)

未認可というと、不安になる患者様もいらっしゃいますし、日本では混合診療が認められていないので、たとえば当院でアバスチンを使用する場合には全て無料にするため、消毒薬や、注射器、針、手技量などの全てのコストが赤字になってしまいます。目の前の患者さんがいれば、治療しないわけにはいきません。日本の経済状況など、いろいろ難しいのは分かりますが、とってもいい薬なので、どうにかならないものかと・・・。

白内障手術 硝子体手術 眼科手術専門 山王台病院 附属 眼科内科クリニック
(茨城県 石岡市 小美玉市 かすみがうら市 土浦市 笠間市 鉾田市)

“アバスチン” への3件の返信

  1. 小美玉市在住の者です 黄斑変成症にかかっています ルセンティスを数度打つも改善出来ず アバスチン治療に変えたいと思い 山王台病院を知り 診察してもらいましたが アバスチン治療は出来ないと言われ断れました 書いてる事と言ってる事が違い過ぎます

  2. ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

    現状では、今も無料で行っている人もいます。
    (年齢、疾患など当院の基準を満たしている場合:このページに記載している新生血管緑内障では現在もアバスチンを全例を無料で使用しています。)

    この2,3年で医療情勢が大きく変化し、様々な疾患に対して、正規品の保険適応が広がっているのが実情です。
    正規品が認可を受けている場合、基本的に厚労省・保健所なども非正規品を使用することは好ましくないと判断されます。保険診療・自由診療・混合診療などの問題もあります。

    ブログの難しいところですが、以前の内容を訂正したらしたで、お叱りを頂くこともあります。
    医療情勢は日々変化しますので、2011年、4年前の記載と現状で異なることはある程度仕方のないことではないかと思いますが、僕のブログで全例・全疾患に対して無料という記載がありましたでしょうか?

    記載不十分ということであれば申し訳ありませんが、
    「書いてる事と言ってる事が違い過ぎます 」
    というのは如何なものかと。

  3. そうですね。
    栗原先生ほどの眼科医に失礼な発言をするのは良くないですし、自分のためにもなりませんよ。

    とはいえ、治らぬ疾患でお医者さんに愚痴ってしまう気持ちはわからない事もないですが、
    残念ながら、現代の最善の医療でも治せない病はたくさんあり、それで医師を責めても意味ないです。
    それは医師の責任ではないです。

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