糖尿病網膜症? 中期:増殖前網膜症

今日は網膜症の重要な病期、中期についてです。

糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)
増殖前網膜症(ぞうしょくぜんまくしょう)

初期の単純網膜症から、さらに血管が詰まっていくと、単純網膜症で見られた赤い小さな点々(網膜出血)、白い小さな点々(硬性白斑)よりも大きな斑点が出てきます。

これが増殖前網膜症(中期)の患者様の1例です。
初期の単純網膜症に比べて、赤い網膜出血(水色の矢印)が大きくなります。また、白い大きめの斑点(軟性白斑:なんせいはくはん)を認めるようになります。軟性白斑は強い虚血(きょけつ:血液が足りない)を示す所見で、血液不足によって網膜の細胞が破壊されたり、むくんだりしている状態です。血液の多い赤ちゃんの顔が赤く、亡くなったり、体調の悪い方の顔は、血流が悪く青白くなるのと似ていますね。

血液の不足具合を詳しく調べる検査として、蛍光眼底造影検査(FAG)があります。蛍光眼底造影は、造影剤という特殊な条件で光を出す物質を、血管に点滴して、目の中にどのように流れるかを調べる検査です。

上の写真と同じ患者様の蛍光眼底造影検査の結果です。水色の矢印が指している白い線は、もともとある正常の血管です。血管の中に造影剤を点滴で入れるので、血管の中の造影剤からでる光が、しっかりと白くうつっています。この血管が網の目状に枝分かれをして、目の中に毛細血管として広がっていくのですが、緑の矢印の先のあたりは、薄い灰色にうつっています。この部位にはきちんと血液がながれ、造影剤が広がっているという事になります。
では、上の写真で軟性白斑となっていた赤い矢印の部分はというと、造影検査の結果では、黒く抜けてしまっています。血液が全く流れないため、造影剤もいきわたらずに白く光らず、黒くうつってしまうのです。この黒くうつる、血流のなくなってしまった部分を無血管野(むけっかんや)と呼びます。

「症状」
この状態でも、多くの患者様で自覚症状がありません。視力も良好に保たれる場合の方が多くなります。(出血や網膜のむくみが、物を見る中心部にあると視力が下がる場合もあります:糖尿病黄斑症)

「治療」
やはり、内科的な治療は重要で、血糖値や血圧の正常化に務める必要があります。
眼科では、必要に応じて網膜光凝固術(もうまくひかりぎょうこじゅつ)と呼ばれるレーザー治療を行います。

「診察」
1ヶ月?2ヶ月に1回の定期検査が必要とされています。ただし、他の合併症の有無や血糖の状態により、実際には3?4か月に1回の診察で済む人もたくさんいます。
担当の眼科医の指示に従うようにしましょう。
診察では、医師が眼底を直接のぞいたり、カメラによる撮影、必要に応じて上記の傾向眼底造影検査を行います。また、視力が下がり始めることもあり、少しこまめに視力を測定したり、黄斑症(黄斑浮腫)という病態の確認として、OCT検査を行うようになります。

中期の増殖前網膜症できちんと治療を行う事ができれば、現代の医学では基本的にはほとんど全員の患者様は失明しないで済みます。(超重症例などでの例外はありますが)
治療法があるのに、なぜ失明する人が後を絶たないのでしょう?
それは、残念ながら、定期検査に来てくれない患者様が無数にいらっしゃるからです。

治療をするべき中期では、視力低下などの自覚症状がない場合の方が圧倒的に多いのです。ですから、目が見えにくくなったら病院に行こうと思っている患者様は、症状を自覚して、眼科に行った時には、既に末期で、失明するかしないかといった治療を相談しければならなくなってしまうのです。

白内障手術 硝子体手術 眼科手術専門 山王台病院 附属 眼科内科クリニック
(茨城県 石岡市 小美玉市 かすみがうら市 土浦市 笠間市 鉾田市 茨城町)

“糖尿病網膜症? 中期:増殖前網膜症” への2件の返信

  1. はじめまして。
    私は43歳の主婦です。

    数年前から糖尿病を患い、今日初めて眼科の診察を受けました。
    そして検査の結果は【増殖前網膜症】でした。
    今月末に造影剤を使った検査をすることになりました。

    今日診て頂いた先生には「たぶんこれからレーザー治療になると思います。」と言われました。
    まだ子供も小さく、今わかって良かった、これからきちんと治療をしていこうと決心して「これから宜しくお願いします。」とご挨拶したのですが、「まぁ、きちんと治療してても失明しちゃう人はしちゃうんですけどね。」と言われ、かなり凹んでしまいました。

    糖尿病も同じ病院で診てもらっているので、眼科もお世話になろうかと思っていたのですが、不安でいっぱいです。

    やはり失明は免れないのでしょうか。

  2. ご担当の先生が、どのような意図で、説明したのかは不明ですが、通常は増殖前網膜症で治療をして、失明をするといったことはまずあり得ません。
    レーザー治療は残念ながら回復するための治療でなく、治療によって、一部の網膜を犠牲にすることで、失明を防ごうという目的です。
    症例や重症度によって、治療後に視力が0.1未満などに大幅に下がることがあり、そういった事が起こりうる前置きとして、話したのかもしれません。
    治療後に視力が下がる場合の、原因のほとんどは、糖尿病黄斑症(黄斑浮腫)と呼ばれる病態が伴う場合です。現時点で、矯正視力はいくつになりますか?OCTという検査は行っていますか?
    もし、現時点で既に黄斑浮腫を発症しているのであれば、レーザー治療のみを行った場合には、まず間違いなく視力が下がります。ステロイド剤やホルモン製剤の注射を併用したり、網膜の中心部近くからレーザーを行うなど、レーザーの打ち方を工夫する必要があります。それらの治療でもコントロールのつかない浮腫の場合には、硝子体手術という手術が必要になります。

    基本的に、現時点で失明することを考える必要はありません。失明を防ぐために、レーザー治療を行うのですが、いかに視力を落とさずに治療をするのかが重要です。出来れば0.7とか0.8を維持して、運転免許証を残したいですよね。

    ただし、レーザー治療は少ない血液でも目が生きていけるように、一部の間引いてしまうような治療であって、決して、詰まった血管を元に戻す治療ではありません。
    治療後に、とても落ち着いた状態になっても、定期検査は絶対に必要です。また、あまりに血糖コントロールが悪く、最終的に全ての血管が詰まって、目に全く血液が流れなくなれば、それは失明に至ります。現時点で心配する必要はありませんが、今回、不安になったことを忘れずに、血糖コントロールを一生涯、頑張っていこうと思って頂けたら幸いです。
    血糖コントロールが、そう簡単なことでないのは分かっています。嫌な話でごめんなさい。医師の立場から正論として。

栗原勇大 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です