眼内レンズ縫着術

今日の午後は手術です。(今日は両眼手術の人が少なめでした。)
・抜糸 1件(数年前の斜視の手術の糸が出てきてしまった)
・白内障手術 3件
・眼内レンズ縫着術 1件
・網膜硝子体手術 3件(糖尿病網膜症2件、網膜中心静脈分枝閉塞症1件)
以上は、みなさん無事に終わりました。

ただし、残念ながら・・・。
95歳の女性で、両眼とも高度の白内障が原因で、ほとんど見えていない患者様なのですが、認知症の問題で、手術の準備・消毒などの段階で中断に・・・。
手術でよく見えるようになりそうなのですが。
はじめから、ご家族の方とは相談してあって、認知で手術ができないかもしれないけど、もしできたら、とってもよろこんでもらえる!、もしかしたらできるかも!と、楽しみにしていたのですが、残念です。
視力の回復で認知症が改善するとの報告も多く、どうにかしてあげたいのですが、95歳だと全身麻酔をかけることも難しいですし。局所麻酔では暴れてしまうと危険ですし。困りました・・・。

さて、今日は白内障手術の特殊例のお話でも。
眼内レンズ縫着術(がんないれんずほうちゃくじゅつ)

以前のブログ(2011.09.05 Monday)で、記載しましたが、白内障の手術はレンズをまるまる交換するわけではなく、レンズ(水晶体)を覆っている袋を残して、中の濁りを取り出し、袋のなかに新しい眼内レンズを置いてくる。という手術が一般的に行われています。
ただし、外傷や生まれつきなどで袋の状態が悪かったり、手術で失敗して袋を破いてしまったり(破嚢)、目に合わないレンズを交換する場合の一部などで、レンズを挿入するための袋が使用できない場合があります。
このような場合には、レンズを固定する支えがないので、人工的に手術で、目の中にレンズを縫いつける。という作業が必要になります。

今日の手術は、
以前に紹介した、水晶体落下で紹介、緊急の硝子体手術で、水晶体をまるまる除去してしまった77歳女性の患者様です。(⇒2011.08.26 Fridayのブログ)
外傷なのか、もともとなのかは詳細不明ですが、当院に来た時にはレンズは袋ごとズレてしまい、目の奥の方まで器械を入れて、まるまる切除をしています。
レンズが入っていないと、極度の遠視となってしまうため、牛乳瓶の底みたいな厚いメガネをかけないと、ピントが合いません。
前の手術から2ヶ月がたち、だいぶキズ口も安定してきたために、今日はレンズを縫いつけることにしました!

以前から、この術式をどうやっているのか?と、知り合いの先生、数名から質問を受けていたので、このブログで書いてみます。(ちょっと専門的にな部分は茶色にしてみます。)


まずは、消毒をして、テノン嚢下注射と呼ばれる、目の後方への注射麻酔を行います。


次に白目を覆っている結膜という組織に少し切り込みを入れます。
切り込みは、黒目の少し左下と、対角線上の右上に2か所作ります。


結膜を切ると、強膜と呼ばれる白い、硬い膜が出てきますが、この部位にも切れ込みを入れます。ここは、あとでレンズを縫う糸の結び目が隠れるようにするためのものです。
(クレセントで、縫着予定の部位の少しだけ上方に、強膜に水平にポケットを作ります。予定手術での縫着の場合には眼球への穿孔前にポケットを作ると、眼圧が保たれていて、やりやすいです。穿孔してからだと、低眼圧でベコベコになってしまうので。前もって準備がきちんとできてさえいれば、前房メインテナーは不要です。メインテナーもたまに使いますが、だいたい少しデスメにシワがよって、術後数日視力が下がってしまいます。)

次に、実際にレンズを入れるキズ口を作ります。

この患者様は、黒目(角膜)の上方、写真では下側にキズ口を作りました。
(4mmで三面切開)


写真で黒目の下のキズ口(黄緑)から、新しいレンズに縛り付けてある針と糸をいれ、初めに作った黒目右上のキズ口の近く(水色)から針を出し、縫いつけます。

同じように、黒目の左下のキズ口にも針を通して縫いつけます。
(正確に対角線上、輪部2mmを目指すのに、カウヒッチ法でやっています。迎えは25Gか27Gを使います。)

すると、こんな感じ。

赤やじるしの先の黄色が眼内レンズなのですが、糸も細くて見えないし、ちょっと分かりにくいですかね。イラストで描いてみますと、

黄色がレンズです。丸いレンズには支えになる部分として、水色の足がついているのですが、この足の部分に糸が縛り付けてあります。この糸の先には針がついていて、黒目の下のキズ口から針を目の中に入れて、白目に作ったポケット(黒線)の近くから、針を目の外に出します。


アクリル製のレンズは、やわらかく、2つに折りたたむ事が出来るので、丸いレンズの部分は直系が6.5mmあるのですが、2つに折りたたむと4mmのキズから目の中に入れることができます。

最終的に、白目から出ていた針と糸を、しっかりと結び付けて(青矢印)、結び目をはじめに作った白目のポケットの中に隠します。(隠さないと、ゴロゴロ痛みの原因になってしまいますので。)

右上の部位でも同じように、白目に糸をしっかりと縫いつけます。


最後に、結膜を覆いかぶせて、熱凝固で、くっつけたらお終いです。
キレイに出来ました。


質問を受けていた、S先生やK先生に。
以前は、MAなどのレンズをインジェクターで挿入後に、ハプティクスを一度出して、糸を縛って・・・。という方法が多かったのですが、確かに2.8とか3mmで、キズが小さいのですが、糸を縛り付けたり、眼内でレンズを回したりが煩雑で、手術時間が30分程度必要でした。
2つ折りの4mmでと思えば、入室前に、糸をIOLに縛り付けるところまでやっておくことで、手術自体の時間、眼球に創がある時間は上記の半分以下で出来るので、感染症などのリスクは大幅に減りますし、操作も簡単で、レンズを回したりで、稀に少量の虹彩出血などがあるかと思いますが、そういった心配もありません。虹彩触ると痛いようですし。
しばらくは、僕はこの術式でいこうかと思っています。

糸はp-c9、レンズはS先生に教えて頂いたのですが、YA-65BBがハプティクスにふくらみがあって、糸がズレたり抜けたりする心配がなくて、いいなと思っています。


レンズへの縛り方は、こんな感じです。p-c9は糸がループ状になっていますが、
?まず普通に一回縛って、しまいます。なるべくキツメに。
?新しくできたループ側をハサミで切ります。
??切ってできた2本の間に、ハプティクスを入れて、縛ります。?でキツク縛っても、やはり緩む事があるので、縛るときに、レンズ側にできた糸のループの間に縫合するほうの断端を1?2回通すと安心です。

“眼内レンズ縫着術” への14件の返信

  1. 栗原先生 
    おはようございます。初めてのメール、失礼します。
    九州在住の者です。
    若い頃、事故で1/3周の巨大裂孔網膜剥離の手術で無水晶体眼になり、自動車運転を考えコンタクトの矯正で遠視力で1,5も出ておりました。年を重ねるに当ってコンタクトの清潔手当て(脱着、洗浄)がボケや脳血管障害により出来なくなるかも知れないという懸念から眼内レンズ逢着術を受けました。しかし、手術予定時間1,5時間を 大いに超え、5時間近くかかり、説明では術中にレンズが脱落して何とか回収して縫い付けております。それで時間が掛かりました。様子を見ましょう!とだけ受けました。
    前説明が長くなりましたが、本題ですが 後遺症として視力が出ません。弱近視設定でしたが、体調によりますが眼内レンズで0.4?0,5位しか出ません。その上、レンズが虹彩を後から押して、なんとなく疼痛の後レンズが前に嵌頓して前に出てきます。何度(5回)も修正術で後に落としますが、、また嵌ってしまいます。このままでは、快適でない老後生活を過ごすことになるのでこのままでは快適な老後生活が出来ない胸中を伝えレンズの前に糸を1本対角線に張りました。その後、10ヶ月程は良かったのですが再び嵌りました。
    質問です。:今のレンズを眼から取り出して別のレンズを新たに逢着術する事は可能ですか?1回の術式で可能ですか?どういう術式が今後の生活に向かって一番最良なのか、ご指導、指示頂けると助かります。
    支離滅裂な長文を書きましたこと大変申し若ございませんがよろしくお願いします。        大庭正章

  2. 今もIOLが虹彩の前に出ているのであれば、再手術の適応と思います。
    昨年、当院でも大学病院で縫着後、何度も何度もでてきてしまう。という男性に、糸を1本張って予防する手術をしましたが、今のところ良好に経過しています。
    それでも偏位が続くのであれば、やはり摘出して、再度別のレンズをきちんと縫い付けた方がいいかと思います。手術は1回で可能です。多くは30分ちょっとの手術と思います。
    ただし、手術も重ねているので、乱視なども大きくなります。裸眼での良好な視力を望むものではなく、ある程度の視力と、IOL偏位による角膜内皮損傷や続発性緑内障などの予防を目標にするための手術になります。

  3. 栗原先生
    お返事ありがとうございました。
    今度で最後の手術として欲しいものです。
    週明け病院に行きます。
    三本足以上の逢着術専用の眼内レンズがあればこのレンズ変移による嵌頓の確率は少なくなるのでしょうですね。術者
    は時間が掛かりそうですけど希望的考えです。    大庭

  4. 3本足。面白い発想ですね!
    ただ、普通に縫い付けて、虹彩捕獲となることは非常に稀ですので、開発費の元が取れるほど売れないでしょうし、
    そもそも、もう一度縫い付けなおす(IOL交換)と、2本足で全く問題起こらないと思います。
    近年、強膜内固定という術式で、より強固にIOLを固定する方法が流行りだしています。この術式でも虹彩捕獲は回避できます。
    手術は何でもリスクがありますが、大庭様が良い結果が得られることをお祈りしています。

  5. 栗原先生
    30代後半の男、都内在住のものです。
    幼少期よりアトピー性皮膚炎の持病があり、中学時代に白内障を発症し、その後手術をし、現在両眼無水晶体眼です。
    また、緑内障で点眼による加療中です。現時点で視神経や視野に異常はありませんが、点眼は継続した方が良いとの所見です。
    私の場合、眼内レンズを入れるのであれば逢着術が必要とのことで、かかりつけ医に大学病院を紹介され受診したのですが、担当の先生曰く、網膜剥離の恐れもあるので、あまりオススメはしないとの所見をいただきました。
    その際に、リスクとしてどの程度の頻度で発症の恐れがあるのかを聞いたのですが、明確なご回答をいただけませんでした。
    紹介いただいたかかりつけの先生からは「あまり心配しなくて良い」と言われたのですが、こちらも具体的な症例数等の安心材料をいただくことが出来ませんでした。
    個人的には、裸眼でもある程度の視力が出ることに、非常に魅力を感じているため、できれば手術に踏み切りたい気持ちが強いのですが、やはり逢着術のリスクも気になります。
    私のような場合、逢着術のリスクはどのようなものが考えられるのでしょうか。
    また、手術となった場合の入院日数はどの程度要するでしょうか。
    ちなみに、現在は、アトピーの症状もかなり落ち着いております。
    突然の照会で申し訳ございません。
    どうぞよろしくお願いいたします。

  6. 大竹様
    遅くなってしまい、大変申し訳ありません。
    手術による網膜剥離のリスクは、現時点で網膜に変性巣(薄く弱い部分)があるか、散瞳が良好か(瞳孔の開きが悪いと網膜の観察がしにくい)、後部硝子体剥離が済んでいるか、などによって異なります。
    リスクが高い人では術前にレーザー治療で予防をすることなどもありますが、予防治療をしていても、おおざっぱな数字ですが、全体で1%程度は網膜剥離になりうると考えておいた方がいいです。

  7. こんにちは。
    突然のコメント失礼致します。
    眼内レンズ逢着術を受けた者なのですが、術後の合併症で悩んでおります。
    お知恵を拝借出来れば幸いです。

    10年前にアトピー性白内障の手術を受け、その後問題なく過ごしていたのですが、2ヶ月前になんの前触れもなく眼内レンズが硝子体内に落下し、翌日診察、翌々日に硝子体内に落ちた眼内レンズ摘出及び眼内レンズ逢着術を受けました。

    手術自体は成功して、矯正視力1.0以上あるのですが、虹彩捕獲の合併症が出ました。
    執刀した主治医からは、虹彩捕獲が原因で眼内レンズが外れる事は無い。まずは経過観察しましょうと言われていますが、逢着術後に眼内レンズが再び外れる事はあるのでしょうか?
    私の場合、常に虹彩捕獲が起きている訳ではなく、治っている時もあるそうです。
    痛みなどはありません。
    また、虹彩捕獲を放置した場合の悪影響などがありましたら教えて頂きたいです。
    メガネを掛けて本を読んでいる時など、逢着術を受けた方の眼内レンズが揺れているような感覚になる時があり、不安になります。

    長文になり大変申し訳ございませんが、先生の見解を頂き、今後のご参考にさせて頂ければと思います。

  8. 虹彩捕獲は眼内レンズ縫着術の合併症の一つです。レンズが手術に中に変形してしまったり、縫う位置が悪かったり、全く問題ないと思われるケースでも眼内の状況や個人差もあり、原因不明で起こることもあります。
    僕が自分で執刀したケースでは、4年前に縫着後、2年後に突然虹彩捕獲が起こって再度紹介となったケースが1例のみあり(横浜市O様;すみません)、個人的には発生頻度は同様な術後の1%程度と思います。この方は手術室で押し込んだ後、サンピロという縮瞳薬を1年近く使用し、その後は再発していないようです。
    他院様での治療後の虹彩捕獲に関しては、やはり縮瞳薬でコントロールできた症例も多くありますが、レンズの前面に糸を1本通して、レンズが前に偏位しないように簡単な手術をした人が2名、レンズを摘出して別のレンズを固定する手術をしなおした人が3名、経験しています。
    縫着術は永久に安定すると思われていた時代もありましたが、ナイロン糸が生体内で加水分解され、数十年の単位では切れてしまうことがわかってきています。
    虹彩捕獲の状況によっては、虹彩色素が散布され、続発性の緑内障に進展します。長期の放置はリスクが高いと考えます。
    ちなみに、最近流行ってきている、強膜内固定法でも虹彩捕獲が起こることがあり、当院に紹介された人を経験しています。
    再手術や処置は、乱視などの屈折値に影響します。現状で裸眼視力が良好であれば捕獲していない時にサンピロを開始するのが無難かと。
    大きな屈折異常(遠視や乱視が強い)があれば、度数改善も含めてレンズの入れ替えを考えてもいいかもしれません。

    1. 栗原先生
      年末のお忙しい中、貴重なコメントを頂きありがとうございます。
      やはり逢着術は永久に安定するものではないのですね…。
      まだ年齢が33歳なので、なるべく長く維持したいものです。

      虹彩捕獲が緑内障に繋がるのは初耳でした。
      年明けに診察がありますので、栗原先生にご指導頂いたサンピロの件を主治医と相談してみます。

      栗原先生が担当なさった、サンピロを1年近く使用し、その後再発の無い患者様は、外科的な処置を行わずに瞳孔捕獲が治った例と捉えて宜しいのでしょうか。

  9. 突然の質問失礼致します。

    先日、水晶体脱臼の為、硝子体手術、IOL強膜内固定術を受けました。

    今の所術後の炎症と低眼圧は見られすが視力は安定し始めて居ます。

    しかし一つ気になる事がありまして、色々調べ、担当医にも確認を取ったのですが明確な答えが出ず、こちらのサイトにたどり着いた所存です。

    失礼を承知でご質問させて下さい。

    私は10代の時にトゥレット症候群(チック)を発症し、今も首振りのトゥレット症状が出ております。

    IOL強膜内固定術を行った場合、この様なトゥレット症状でIOL支持部へのストレス及び破損(偏位)等のリスクはあるのでしょうか。

    1. エビデンスや明確なデータはありませんが、直接眼球を打撲するようなケース以外は関係がないと思います。
      僕の印象でのみですが。

      1. 返信が遅くなり大変申し訳ありません!

        回答して頂きありがとうございます!

        トゥレットの件安心しました。とりあえず眼球を打撲させないように気をつけながら生活して行きます!

        本当にありがとうございました。

  10. 栗原先生、突然のコメント申し訳ありません。
    主人が9/20に眼内レンズ逢着術を行いました。
    もともと15年ぐらい前(25歳位)に原因がわからないとのことですが両眼の白内障になりレンズを入れていました。
    最近になって横になってスマホを見ると左眼だけ見え方に違和感があり、また飛蚊症のような症状もあるとのことで近くの眼科を受診したところ、レンズがずれた状態にあり、またチン小帯がもろい?状態にあるため逢着術を行いました。(はじめの診察で眼圧が緑内障レベルの高さがあると指摘されました)
    術後、右目と左目ではものの高さが左右違って見えるらしく、左のほうが下がったように見えとても不安な様子です。
    術後1日目の診察では麻酔の影響と言われたのですが3日目でも麻酔はまだ効いているものなのでしょうか?また左右で高さが違って見えたりするのでしょうか?
    本日は手術をしたクリニックが祝日のためお休みだったので前もって紹介状を渡され大学病院で経過の診察をしてもらったのですが、感染の兆候はなくレンズも真ん中にしっかり縫い付けられており、左右の目の動きも問題ないと言われました。
    もちろん回復の過程ですから個人差はあると承知しているのですが現在の状態で左の視力は0.1あるかないかです。(主人の視力低下に対しての不安がとても強く、診察後、すぐにメガネをまた新調する必要があることを前提でメガネ屋に行き視力測定の上、メガネを作りました。)
    今後視力の回復とともに見え方の改善などは期待できるのでしょうか?
    術後、日数が浅いことも重々承知しています。ただ、主人の不安を少しでも和らげられないかと思っております。
    先生のご意見を頂ければ幸いです。
    お忙しい中、最後まで目を通していただきありがとうございます。

    1. 体調不良が続き、どうにかを診療していた状態でお返事が大変遅くなってしまいました。申し訳ありません。
      通常の白内障手術と異なり、炎症が強かったり、角膜に皺が寄っていたりと、通常「2週間くらいは見え方をきにしないでOK」と伝えるような手術です。
      お返事も遅くなってしまい、もうだいぶ回復しているものと思いますが。
      また、傷口が大きめの時に角膜を縫った時には、術後の乱視の状態によって、数か月後に抜糸をして乱視を補正する場合もあります。

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