緑内障? 静的視野検査:ハンフリー その2

今日は、昨日と同じ、緑内障の静的視野検査の結果についてです。
静的視野を測定する器械は、数社から発売されており、機種によって結果の表示が異なるのですが、当院で使用しているハンフリーという機種で説明します。
(ハンフリーは世界で最も有名、高価な機種です。)

緑内障?
静的視野検査:ハンフリー その2


昨日も出したサンプルです。

視野欠損
まず、右上の緑の○の部分が、視野の欠けている状態で、一般の方でもイメージしやすいかと思います。これは右眼の検査結果ですが、上方、とくに鼻側の上方の視野が欠けている事が分かります。
黒い部分が大きくなってくるようであれば、徐々に視野が狭く、悪化しているという判断になります。当院に通院の患者様は視野検査の結果を受け取っていると思いますが、できるだけ捨てずに保管するようにして下さい。1回前の検査結果と比べるだけだと、変化がないと思うような場合でも、1年前、2年前、3年前と、きちんと並べて比べてみると、実は徐々に悪化していることが分かる場合なども多々あります。
特に、大きな病院などで、担当の先生が毎年のようにコロコロ変わる場合は要注意です。1人の先生が担当した1年の間では、ほんの少しの悪化しかないと判断し、次に担当する先生も、この1年ではあまり変化なし。なんていうことを繰り返していってしまう事があります。
10年、20年と付き合っていく緑内障では、1年の悪化がごく少量でも長い目でみたら、かなり悪化していた。なんていう事もあるのです。
例えば、1年間に5%の視野が欠けていくのを見逃すと、単純計算では、5% x20年=100%、20年では失明してしまうのです。(もちろん実際には、そう単純な計算ではありませんが。)
視野検査をできるだけ保管して、5年前などと比べることは、とても重要です。10年、20年という病気では、その間に引っ越しや転院をするときもあるかもしれません。そんな時にも、昔の視野検査はとっても役立つのです。

MD値
次に、青の○の部位には、MD(mean defect)と呼ばれる値が書かれています。
このMD値は、視野検査の重症度、病気の進行具合を評価します。
視野が欠け、病気が重度になるほど、MD値がマイナスに大きくなっていきます。
例えば、MD値が0dB(デジベル)では正常、上のサンプルは-10dB程度で中期になります。

学会や、各医師によって、分類が多少は異なりますが、一般的に多く用いられている分類を紹介すると、
MD値が、
0?6 dB ⇒ 早期視野欠損(初期)
6?12 dB ⇒ 中等度視野欠損(中期)
12 dB以上 ⇒ 重度視野欠損(進行期
)と分類されます。
多くの場合、初期?中期では自覚症状は全くありません。中期?進行期になって初めて、視野が欠けていることを自覚することができるようになるようです。

特に以下の数値に入ると失明するかしないかなどの検討に入ります。
15? 危険領域
20? 日常生活が不自由
25? 機能的・社会的失明

(片足をなくしても十二分に生活できる人もいれば、全く歩けなくなってしまう人もいます。緑内障も、重症と分類されても、それなりの生活ができる人、軽症でも不安で歩けなくなってしまう人もいます。上記の分類は、それくらいの人が多いという意味です。)

上記の視野欠損のイメージ図を比べる以外にも、MD値の絶対値が徐々に大きくなる場合は、悪化していると言う事になります。例えば、1年間にMD値が3づつ悪くなるなら、8年間では24dB。初期の人が失明に至る悪化のスピードです。
(1年でMD値がどれくらい落ちていくのかを、MD slopeと呼び、手術をするかどうかなどの判断に使ったりします。)

キャッチトライアル・固視不良などの誤差
実は、緑内障の静的視野検査は、誤差がとても大きな検査です。
光が見えたらボタンを押す。光ってもボタンが押せなかった部分の視野が欠けていると判断していくのですが、
もしも、完全に失明して、盲目の人が検査を受けたとするときに、光が見える見えないに関わらず、ボタンを押しまくっていたら、全ての光が見えたことになり、結果は正常だとの判定になってしまいます。
こういった事、不正がないかを監視するために、ハンフリー視野計では、様々な罠を仕掛けています。
例えば、光は、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。と、ある程度リズムよく光っていくのですが、器械が意地悪をして、ピッ。と音を出すのに、わざと光らない場合を作ったりするのです。
・ゲーム感覚で、いい点数をとるぞ!!なんて気分で検査に臨むと、とにかくボタンを押しまくってしまい、本来は病気で見えない場所があるのに、全て見えたことになって、正常でした。なんて結果になることも。
・逆に、高齢の方や、睡眠不足、気分がめいっている場合などでは、ボタンを押すのが遅れてしまって、本来見えるべき光でも、ボタンを押せずに、過度に重症の結果が出てきてしまったりします。

このような偽陽性・偽陰性と思われる検査の結果を、器械がじっと観察して、何%の誤差がある。なんていう事が表示されています。
他にも、目がきょろきょろと、動いてしまった回数(固視不良)なども表示されます。

誤差は少なければ少ないほど、正確な検査となりますが、緑内障と診断される当初は、検査が上手に行かない場合も多々あり、本来、病気でない人が病気と判断されたり、その逆の場合も出てしまう事がありえます。

ボタンの押しすぎ、押さなすぎ。というのが、上のサンプル、赤○の部分に、キャッチトライアルとして、3%などと表記されるのですが、これがもし20%とか、30%とか、あまりに大きい場合には、もはや検査を行った意味がありません。体重を計るのに、米俵を持って体重計に乗るようなもので、時間とお金の無駄です。

静的視野検査では、出来る限りリラックスして臨み、はっきりと光が見えたときのみ、ボタンを押すようにしましょう。(迷った時はボタンを押さない。)
それでも、得手不得手があったり、高齢者などで検査が難しく、誤差が大きい時には、後日記載しますが、動的視野検査などの別の検査をお勧めすることになります。

このように視野検査は誤差のある検査です。初診時から重症例。などを除けば、一度の検査のみで緑内障と確定して、すぐに治療。なんていうのは医師の横暴で、きちんと誤差がない検査結果が得られて、きちんとした治療の目標、ビジョンをもって臨むことが眼科医には望まれます。

ここで、患者様にお願いです
当院では、誤差が大きかった場合や、目や体が動いてしまう場合などは、出来る限り、光がでるスピードを遅くしたり、検査をやり直すなどして、せっかくの検査が無駄にならないよう、できるだけ正確な検査ができるように、国家資格をもったORTのみが検査を行い、30分に1名以下と、通常の医院に比べると、かなりゆっくりと時間をとって検査を頑張ってくれています。(多くの症例がキャッチトライアルは5%未満。たまには10%程度くらいの人がいます。20%を超えるのは年に数回というレベルで、本当に検査が苦手な人のみ。というか、20%を超える場合は検査結果としてあまり参考にしていません。)
ですので、1日にできる視野検査の件数が少なく、予約枠の確保には少し苦慮しています。検査は完全予約制ですが、もしも検査日や時間の都合が悪くなった場合には、無断でキャンセルをすることなく、なるべく早めにお電話を頂けますと幸いです。

“緑内障? 静的視野検査:ハンフリー その2” への1件の返信

  1. 栗原先生こんにちは。お忙しい所申し訳ありません、ご相談を宜しくお願い致します。61歳主婦です。
    (掲示板の方に書いてましたが、こちらにそのまま移動しました。すみません)

    高眼圧で12年間から降下点眼薬使用。6年半前に左目、3年半前に右目の正常眼圧緑内障を発症しました。

    初期の状態で維持をしてきましたが、昨年あたりから、進行が少し早くなりました。

    両目ともに初期です。昨年8月の視野検査で、左目が、
    MD値-2.54⇒そして、半年後-4.25と、-2.0近い進行
    PSD値も6.65⇒半年後、7.06
    そしてGHTが92%から、半年後、87%と大幅に悪くなりました。

    視野検査の、固視不良はありません。悪くなったのは左目だけです。

    右眼も進行していましたが、今回は、進行が止まっていました。
    点眼薬も、ルミガン・アゾルガに昨年夏に変更、14まで下がり、維持してきましたが、
    寒くなってから、16と17まで上がり、視野検査も悪かったので、先月末からグラナテック追加です。

    強度近視なのでOCTは、既に真っ赤で、視神経は元々薄いので
    年を重ねると、いつか、進行期が来る事は覚悟はしていたのですが、
    その進行が、あまりにも早いようで、今は怖くてなりません。

    主治医は、視野検査は100%では無いので、次の視野検査で再確認、
    それまで保留しましょうとは仰っていました。
    欠損が増えたのは、右横下の端の部分です。
    視野検査の不備(姿勢が悪かった等)と言う可能性もありますか?

    半年で、ここまで、視野狭窄が進行する原因が何かお解りになるようでしたら、教えて頂けると幸いです。
    栗原先生も書かれてるように、年、1.0の進行を目安にしていたのに、少し混乱しています。
    今はグラナテックが更に追加になり、14に落ち着いています。

    この進行が、止まることなく、数年で、末期に入ってしまう事もあるのでしょうか?それが一番怖いです。

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