隅角解離 隅角後退症

今日は外傷の患者様の一例です。

隅角解離(ぐうかくかいり)
隅角後退症(ぐうかくこうたいしょう)

緑内障のブログでちょっと書いたのですが、目の中には房水という水が循環しており、房水によって栄養分を循環させたり、眼球のボールが膨らむようになっています。

茶目(虹彩)の後ろ側にある毛様体と呼ばれる組織から、房水は産生され(オレンジ矢印)、赤矢印の隅角と呼ばれる出口から排出されていきます。
この赤矢印の部分、隅角は、前側が黒目(角膜)と、後ろ側が茶目(虹彩)によって作られる角の部分になります。


少し分かりにくいので、一応、別のイラストも。赤が隅角、オレンジが毛様体、緑が水曜体、青は水晶体を支えるチン氏帯と呼ばれる糸状の組織です。

黒目に特殊なレンズをくっつけて、隅角を診察することができるのですが、

当院の事務、生井沢君の隅角です。写真やや右上の白くうつる部分が角膜、茶色い部分が虹彩、赤い矢印の白と茶色の間(境界)が隅角と呼ばれる構造です。問題ない隅角です。

今回は、10代の男の子で、野球ボールが当たってしまったとのことです。

茶目の左下の部分、緑の矢印のところで、虹彩が断裂していることが分かります(虹彩離断)。


ちょっと拡大してみると、緑の矢印の先には、水晶体が見えます。とっても細いので分かりにくいですが、青い線を2本引いてみましたが、それと平行に、うすーい白い糸が水晶体を支えるように張っているのが分かるでしょうか?チン氏帯と呼ばれる組織です。ケガでチン氏帯が切れてしまうと、水晶体がずれたり、白内障手術が難しくなったりします。(本来は虹彩が邪魔をするので、チン氏帯は見ることが出来ない組織です。)


断裂した部分の隅角の写真です。青矢印の分だけ、隅角が断裂しています(隅角解離)。断裂の隙間から、本来見ることのできない、毛様体という房水を作る組織がみえます(ピンク矢印)。


断裂していない部分の隅角ですが、打撲によって、虹彩が後ろ方向にずれたため、ちょっと細い矢印ですが、緑の分だけ隅角が後ろに下がり、隅角の構造が正常に比べて広がっている状態です(隅角後退)。
写真のちょうど真ん中のあたりには、隅角に赤い出血が見えます。打撲で無理に隅角が引っ張られた時の出血でしょう。

隅角解離は以下の主に問題を引き起こす場合があります。
?低眼圧黄斑症 
目の中を循環する房水の排出量が多くなりすぎて、眼球がしっかりと膨らんでいる事が出来ずに、やわらかくペコペコになってしまい、低眼圧黄斑症といって、網膜に浮腫みがでたり、シワがよったりして視力が下がってしまう事があります。主に外傷直後から、遅くても数ヶ月以内に問題になります。
?緑内障
逆に、房水の流れ方によっては房水の排出が悪くなるなり、目の中に房水がパンパンに増えて、眼圧が上がってしまう事があります。ケガをした直後だけでなく、数年数十年たってから緑内障を発症することもあり、問題ないと思っても、稀には定期検査を受けていただく必要があります。
?まぶしさ(羞明;シュウメイ)
瞳孔・茶目には、目の中に入ってくる光の量を加減する働きがあります。断裂部から光が余分に入ってくると、まぶしさを感じることがあります。
?復視(フクシ)
断裂部から入る光が網膜に映像を結ぶ場合には、瞳孔の中心をとおる正常な映像と、異なる映像として認識されるため、物が2重に見えたりすることがあります。

治療法
根本的な治療法は、手術で断裂部を針と糸で縫い合わせることです。
手術以外では、眩しさや復視を軽減するために、特殊なコンタクトレンズで断裂部を隠すようにしたり、緑内障を発症した場合には、緑内障の目薬をつかったりする場合もあります。
この患者様は、10代の学生なので、できれば上記の合併症が起こらずに、手術が必要にならないといいのですが・・・。

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