血管新生緑内障? 病態 その2

土曜日は通常は午前外来のみなのですが、重症例で少し急いで手術をするべき人がいたため、午後は手術としました。(スタッフのみなさん、ご協力ありがとうございます。)
・網膜硝子体手術(茎離断)2件
(網膜動脈瘤破裂1件、網膜中心静脈閉塞症+黄斑浮腫1件)
・緑内障手術(血管新生緑内障:レクトミー)1件
手術は問題なく終わりましたが、明日以降もしっかりと処置が必要です。
別件ですが、午前中に網膜剥離の患者様が来院されました。初期なので月曜日に準緊急手術の予定ですが、すでに10件位手術が入っているようです。満床問題が発生するに違いない[:冷や汗:]今日の手術の患者様がすぐに退院可能になるといいのですが。

さて、昨日の続きです。
血管新生緑内障 病態 その2
血管新生緑内障は、目の血管が詰まって、血流が悪い場合に発生する新生血管によって、房水の出口(隅角)がふさがれてしまい、眼圧が上昇する疾患です。
主に糖尿病網膜症や、網膜中心静脈閉塞症という病気の重症例や、末期の症例に起こります。
全く眼科に受診せず、初めて診察した時点ですでに血管新生緑内障を発症しているような方もいらっしゃいますが、眼科で手術を受けたり、きちんと治療をうけていても発症してしまう場合も多々あります。眼科にかかっていたのになんで?と思う方もいらっしゃいますが、あまりに血管が詰まってしまうと、今の医学ではどうにもできないのです。

説明も難しいので、ちょうど本日手術をした患者様の例で記載してみます。
糖尿病の患者様ですが、お時間のある方は糖尿病網膜症についてご参照下さい。
http://blog.sannoudaiganka.jp/?cid=4922

30代の糖尿病の患者様です。お父様もお母様も糖尿病。残念ながら内科の通院を中断してしまい、その後に、視力低下を自覚して当院に初診となりました。
視力は両眼ともにメガネをかけても0.3?0.4しかありません。

左が右眼、右が左眼です。右眼の写真では、赤矢印の先から下方に向かって赤い出血(硝子体出血)を認めます。左眼はオレンジ色の丸い視神経乳頭を緑矢印で拡大しますが、その右側に赤いくるっと丸い血管が見えるでしょうか?これが新生血管です。また、両眼ともに、下のOCT画像では黄斑浮腫(おうはんふしゅ)という病態を認め、黄色矢印の部分に水が溜まって、網膜が厚くなっていることが分かります。専門的には、右眼はB?+M、左眼がB?+Mという進行期で、治療をしなければ早々に失明が危惧される重篤な状態です。(もともと若い患者様は重症化しやすい傾向があります。)

造影検査でも血流の途絶えた無血管野や、造影剤が大量に漏れ出し、多数の新生血管が存在することが分かります。

治療を開始し、ステロイドや抗VEGF薬注射や、レーザー治療など、1年前の昨年の冬には、両眼の網膜硝子体手術まで施行しました。

これは、今から2ヶ月前、昨年末の写真です。

青矢印の先にあるような、白?灰色の丸い斑点が多数見えますが、これがレーザー治療で、網膜を焼いたあとです。下のOCT画像でも、治療前に溜まっていた水がなくなり、網膜が薄っぺらくなり、黄斑浮腫が消失しています。
治療によく反応し、両眼ともに矯正視力0.8?0.9まで回復し、昨年の春から年末までずっと良好な状態を保っていました。

糖尿病網膜症や、中心静脈閉塞症など、血管が詰まって血流が悪くなる病気で、もっとも理想的な治療法は、血管の詰まりを解消し、血流を元通りに戻すことです。しかし、残念ながら、現在の医学ではそういった治療法はありません。
血管が詰まったら、詰まったままです。少ない血液でもバランスがとれるように、わざとレーザーで網膜を焼いて、網膜を殺して、今ある血流・血液のみで、残りの網膜が生きていけるようにバランスを取る治療をおこなうのです。バランスがとれずに、必要とする血液が足りないままでいると、VEGFというホルモンの働きによって、目の中に新生血管が発生して、最終的には大出血につながってしまうのです。レーザーで焼いた部分は基本的には見づらくなってしままいますが、仕方のないことです。
畑の作物で、肥料が足りないから、全滅してしまうよりは、間引きを行って、重要な部分だけは助けよう。と言うのに似ています。

上の治療後の写真でも、中心部のあたりにはレーザー治療のあと(灰色の丸)が見当たりません。黄斑部(おうはんぶ)や後局(こうきょく)と呼ばれる、網膜の中心部をレーザーで焼いてしまうと、中心部の視力がなくなってしまいます。このため、黄斑部(中心部)はレーザーが出来ない場所なのです。もし、中心部をレーザーで焼いてしまえば、必要な血液は少なくなりますが、治療のせいで目が見えなくなってしまうので、矛盾してしまいますよね。

図の赤い部分の網膜をレーザーで焼いて殺して、緑の部分を助けよう。というのが治療の目的で、緑丸の中心部の網膜は焼けませんし、緑矢印の眼球の前の方の組織も構造上、焼いてしまう事ができません。
?少し血流が悪い人は、赤い部分をまばらにレーザーで焼くことで、少しだけ網膜を殺して、目が欲しがる必要な血流を少し減らします。
?重症で、血流の不足が大きい人は、視野が狭くなりますが、赤い部分をしっかりと焼いて、必要な血液を出来る限り少なくします。
?赤い部分を全て焼いてしまっていても、さらに血管が詰まって、限りなく血流・血液が足りなくなってしまう場合には、血管新生緑内障が発症します。血液の不足により、目の中に新しい血管を欲しがるVEGFというホルモンが出てきますが、網膜はレーザーで焼いてしまってあるので、新生血管は発生しません。
VEGFが茶目(虹彩)や、隅角に作用して、目の前の方の組織に新生血管が発生してしまうのです。

昨日も載せた画像ですが、こんな感じに新生血管が発生します。

一昔前は、糖尿病で失明。というと、眼底出血(硝子体出血)で、目の中が血みどろだったり、カサブタだらけになって失明。というパターンが多かったのですが、治療法や、手術成績の向上により、出血やカサブタといった増殖網膜症とよばれる状態で失明に至る人は激減しています。
なので、糖尿病網膜症で失明する患者数は全体としては減ってきていますが、そのような手術を乗り越えて、さらに血管が詰まってしまった超重症例では、血管新生緑内障という形で失明する割合が増えているのです。

糖尿病は治りませんので、どんなに治療が上手くいっても、その後の血糖値が不良であれば、目の血管はさらに詰まっていきます。高血圧や喫煙でも血管は詰まっていきます。
一度、眼科で治療を受けて、どんなに目の状態が落ち着いたとしても、定期検診が絶対に必要なのは、さらに血管が詰まった場合には、レーザーを追加したりする必要があるからです。
硝子体手術まで行って、目の奥の隅っこまで、出来るところはレーザーを行っても、それ以上に血管が詰まれば、血管新生緑内障を発症します。難しい病態ですが、血管新生緑内障の治療が上手くいって落ち着いたとしても、全ての血管が詰まれば絶対に失明します。内科の医師や眼科の医師から、「血糖値、血圧、食事、禁煙。」何度も言われるのは、嫌な事だと思いますが、体のためを思ってのことです。

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