麦粒腫 ものもらい

今日は重症の紹介などもなく、落ち着いた1日でした。
僕は明日はお休みなので、今年度のクリニックでの仕事は今日で終わりです。
この3月は緊急手術が異常に多くて、とにかく忙しかったです。個人的にはちょっと疲れていましたが、スタッフの協力にて乗り越えられました。いつもありがとう。

今日は、今朝退院の患者様の話題から一つ。
麦粒腫(ものもらい)
麦粒腫(ものもらい)は、とてもよくある病気で、当院でも週に1人か2人くらいは診断します。(当院は通常のクリニック様と病気の内容の比率が異なるので、一般的な眼科医院ではもっと多いかもしれません。)

まぶた(眼瞼)には、脂を分泌する脂腺(しせん)と呼ばれる組織と、汗を分泌する汗腺(かんせん)と呼ばれる組織が存在します。

赤矢印がマイボーム腺と呼ばれる大きな脂腺で、ここから分泌される脂によって、まばたきが滑らかになったり、涙の蒸発を抑えて、ドライアイから目を守ったりしてくれます。
このマイボーム腺に、バイ菌が繁殖して感染症を起こしたものが、麦粒腫、とくに内麦粒腫と呼びます。
青矢印、まつげ(睫毛)の根元のあたりにも、小さな脂腺と、汗腺が存在しますが、ここに感染が起こった場合を、特に外麦粒腫と呼びます。

内麦粒腫でも、外麦粒腫でも、バイ菌による感染が成立すると、まぶたにウミが溜まって炎症を起こします。まぶた全体が、比較的やわらかくプックリと赤く腫れ、熱を持ち、メヤニ(眼脂)がでます。瞬きをするとゴロゴロと痛みを感じたりします。

最近、当院に来た人たちですが、まぶたが、赤くプックリと腫れています。お岩さん。といったイメージです。

バイ菌と説明すると、「私は汚いものは触ってない!」なんておっしゃる患者様もいますが、手術室でもない限り、身の回り、本当は空気中だってバイ菌だらけです。僕たちの皮膚にも、常在菌(じょうざいきん)といって、普段から細菌が住み着いています。むしろ、常在菌が皮膚いることで、体を別のもっと悪い菌きら守ってくれていたりするのです。
一番有名な常在菌として、黄色ブドウ球菌というのがいるのですが、子供がよくなる皮膚の「とびひ」なんかも、体や皮膚が弱った時に、黄色ブドウ球菌が病的に増殖してしまったことが原因で起こります。
麦粒腫の原因菌も黄色ブドウ球菌の事が多いようです。体調が悪かったり、目にキズがあったりするときに、ちょっと擦ってしまったりすると、麦粒腫が発症したりするので、特に畑仕事や土いじりをしたわけではなくても、麦粒腫になるときはなってしまうのです。もちろん、洗顔をしないなど、清潔に出来てない人の方が感染しやすいです。

感染力の強いウィルスが原因ではないので、流行り目(流行性結膜炎)などとは違い、よほどの事がないと人にうつることはありません。左目から右目にうつることも少ないので、ほとんどは片目にできます。

治療は、感染症なので、抗生物質を使うことで、原因となるバイ菌・細菌をやっつけることです。外来では点眼薬を処方したり、腫れが強めの場合には、内服薬も併用して治療を行います。
ウミがたくさん溜まって、痛みが強い時などには、針を刺したり、メスで切開をしてウミを出すこともあります。

実際の診療では、ほとんどの場合では点眼薬のみで数日で治ってしまいます。なので、当院では「数日で治ったと思ったら、もう来なくてOKです。治りが悪かったり、悪化するときには必ずまた来てね!」と説明しています。

今回の患者様は、「他院の眼科や内科様で、点眼薬や内服薬の治療を受けたが、どんどん腫れてきた。」との訴えで先週末に当院を受診されました。
珍しい経過なので、腫れたまぶたを少し切開して、ウミのサンプルを取り出し、培養(ばいよう)と言ってバイ菌の種類を調べる検査を行って、とりあえず、強い抗生物質の内服薬を出してみました。
その後、週明けの月曜日にまた来て頂いたのですが、あまり良くなっていませんでした。
培養の結果もちょうど出たので、よく見てみると、MRSAと呼ばれる、多剤耐性菌が感染の原因となっていました。MRSAは、ほとんどの抗生物質が効かない特殊なブドウ球菌です。
「それじゃあ、治らないよな。」と、月曜日にそのまま入院して、バンコマイシンという、MRSAによく効く抗生物質の点滴治療を受けて頂きました。
今日はまぶたの腫れもかなりよくなって、退院となりました。

左が初診時、右が退院時です。腫れ・痛みが引いて良かったです。

「麦粒腫で入院。」というのは、僕の人生では初めての経験なのですが、
「ものもらいなんて簡単な病気だから、この薬で大丈夫。」という先入観はよくない。
「治りが悪い時には、必ずまた来てね!」と言うのはいいことで、今後も必ず続けよう。と、再び認識することが出来ました。

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