黄斑円孔? 手術後の回復・見え方

今日のお昼は以下の手術を行いました。
・白内障手術 5件
・涙小管形成手術(涙小管断裂)1件
無事に終わりました。

黄斑円孔、今日で?ですが、そろそろ終わりです。
黄斑円孔? 手術後の回復・見え方
黄斑円孔の手術に関しては、?で記載しましたが、簡単におさらいすると、目の中に器械をいれて、内境界膜という網膜の表層の膜を剥離し、網膜を柔らかくします。その後、目の中に空気を入れてうつ伏せをすることで、円孔の周囲の網膜を浮力で引き寄せて、穴を閉じる。という方法です。

ここで重要なのですが、手術は、
なくなってしまった中心部(黄斑部)の網膜を元に戻すのではありません。
周りの網膜を引き寄せて、穴を閉じ、中心部の網膜の代役をさせるのです。

イメージ図にしてみると、

?正常な網膜です。中心部の赤い部分の網膜には、物を見るための視細胞が沢山集まっています。その周りの青にも、視細胞がありますが、赤に比べると数が少なくなります。緑はさらに見え方が落ちる部位です。
?黄斑円孔で、赤の部分の網膜が硝子体に引っ張られて断裂し、無くなってしまうと、視野の中心部が欠損、見たい部分が見えなくなってしまいます。
?手術の効果で、青や緑の網膜を中心部に引き寄せます。
?青の部分の網膜が、視野の中心部の視界を担うようになります。

僕たち眼科医の感覚では、穴が閉じることを治癒「病気が治った」と表現しますが、これは「全く元の状態に戻った。」という訳ではありません
赤に比べて、青の網膜は、視細胞の数も能力も乏しくなります。この青の網膜が中心部の見え方を担当するようになるので、どんなに回復しても「視力が悪い」、「感度が悪い」、「少し暗く見える」などが残り、完全に元通りという事はあり得ないのです
また、中心部にギュッと網膜を引き寄せた感じになるために、基本的には「ゆがむ」「物が小さく見える」などの症状も残ります。

青に比べて、緑はさらに感度が悪いのですが、黄斑円孔の穴が大きく、青の部分まで無くなってしまった症例では、緑が中心部の役割を担うために、さらに後遺症が大きく残ります。
⇒手術前の穴が、大きければ大きいほど術後の回復が悪く、穴が小さければ小さいほど良好な回復が得られます

完全に元に戻らない。なんていうと、ガッカリしてしまいますが、黄斑円孔は手術直後に見え方が悪くても、数ヶ月?半年程度は改善傾向になることも多いので、術直後の見え方だけで落ち込む必要はありません。
例えば、右利きの人が、事故で右手を失った場合に、全く同じとは行かなくても、長い期間のリハビリによって、左手を右手の代わりに使えるようになると思います。
同じように、最も重要な黄斑の網膜(赤)がなくなって、その周りの網膜(青)が中心部の代役を担うようになって、何ヶ月も経つと、脳が映像を補正するなどして、青の部分の網膜があたかも赤の部分のように働けるようになる場合もあります。
こういう反応って、器用・不器用などの個人差も大きいのですが、年齢も重要です。一般的に年齢が若い時の方が回復がよいようです。10代で右手を失っても、左手を利き手として、あまり不自由なく生活ができるようになる人が多いと思いますが、80代で利き手を失ってしまった場合に、反対の手でいろいろな仕事を行えるようになるのは大変なことです。
⇒年齢が若い患者様のほうが良好な回復が得られます

黄斑円孔の手術後の回復の程度や見え方は、円孔の大きさや、発症からの時間、年齢など、様々なものが関与するため、一概には言えないのですが、完全な元通りを期待するものではないことはご理解下さい。
僕は手術の前から上記のような説明をして、「元通りにはならないですよ。」と数回お伝えしてから手術をするのですが、黄斑円孔ってなかなか理解が難しいようで、手術後1週間とか2週間とかで、手術前よりも視力の数値が改善していても「まだあまり見えないけど、いつころ元に戻るの?」「中心部がゆがんで見えにくい」「中心が少しくらいけど」といった質問を多々受けます。
「だから、完全に元には戻らないって、何度も言ってますよね?」って、ちょっと凹んでしまいます。僕の説明がまだまだ分かりにくいのかな・・・。

逆に、早期に手術ができて、視力が1.0以上に回復する症例も多々あり、「私は手術後に全く不満がなく、完璧に治った。」と喜んでくれる方もいますが、これは正確な話ではなくて、その方は症状に疎いというか、多少のゆがみなどは気にしなかったり、気が付きにくいだけなのです。まぁ、医師としては喜んでもらえたほうがうれしいのですが、そういった意見を待合室で耳にしてしまうと、「あっちの人は治ったのに、私は治ってない。」というクレームの元になってしまうのが難しいところです。

なんだか、よく分からない話なってしまいましたが、
基本的には黄斑円孔の手術を行って穴が閉じれば、
・病気が極端に古いとかでなければ、視力がある程度は改善します。
・両眼で物を見るときは、多くの人がゆがみや違和感を感じにくくなります。(片眼づつ見え方を比べると、何らかの後遺症を自覚する例がほとんどです。)
以上の回復は、手術直後に起こるわけではなく、手術後に数ヶ月?半年程度の期間をかけて完成されていきます。

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

“黄斑円孔? 手術後の回復・見え方” への21件の返信

  1. 読ませていただき よく解りました。術後三か月の私は
    不安でいっぱいの毎日でしたが、偶然開いた先生の説明に納得しました。歪は 少しづつ回復してるように感じますが、最近 微妙なふらつき 頭の中でくらっとしますが 様子 みながら生活していきます。有難うございました・

  2. 小山様
    ご連絡ありがとうございます。
    円孔を閉じることが、眼科医にできる最大限の治療です。
    それを僕たちは「治っている」と表現しますが、
    それは残念ながら、元通りではありませんが、担当の先生は一生懸命、頑張って治療したのですよ。
    手術をしなければ、さらに視力が下がっていた可能性の方が高い病気なのです。
    視力の改善には、個人差がありますが、多くの方は両眼で見るときにはゆがみを意識しなくなりますので、もう少し様子を見てみてくださいね。
    黄斑円孔は、比較的両眼に起こることが多い病気です。
    反対の目に異常を感じた時には、すぐに眼科を受診してください。

  3. お久しぶりです。

    …眼科医にできる最大限の治療…
    それを(治っている)と表現する…

    この素晴らしいコメント、いただきです!

  4. いつもありがとうございます!
    この数週間、すごーく忙しくて、かなりまいってます・・・・。
    毎日網膜剥離との戦いで、眼軸30mm以上のreopeとか、内科の先生だったり、今日も剥離と、重度の後部ぶどう腫の黄斑剥離で目を凹まさないと攝子が届かなかったり。
    年内はブログは無理かもです。
    今週末に、先生の近くで知り合いの結婚式があります!

  5. 術後12日になります。分かっていても見ずらくなっているので心配で仕方ありません。19日に外来です。先生に聞く事ができないかもしれないし、怖いです。あと今メガネがあってないので作り替えたほうがいいのか迷ってます。

  6. 中村様
    お名前や、手術日、術後検診など調べても、当院の患者様ではないようです。
    まずは、主治医の先生にきちんと質問をお願いします。
    通常は、術後は時間とともに回復に向かう疾患です。逆に術後に進行性にみづらくなっていくのであれば、早急にご連絡頂く方がよいかと思います。

  7. 違う病院で黄斑円孔の手術をしました。
    このページの説明が参考になりました。
    まだ術後3週間。前よりゆがみや欠けがマシですが、まだまだ回復してほしいです。
    両方の目になったら、最悪だと思います。片方なら生きていけますが。まだまだ仕事をしたり、車の運転はしたい年齢です。
    こればかりは誰も手のほどこしようが無いというのが辛いですね。
    孔がふさいだのはありがたいですが。
    細胞さん、お願い!

  8. 初めまして。先日、地元の眼科で網膜前膜の手術をしました。術前は歪み等はなく 白内障だけと思ってたら網膜前膜も見つかった次第です。ところが術後4日後位に頭痛に悩まされ脳外科にも行きましたが異常はありませんでした。一週間検診で今度は黄班円孔と言われ即日再手術をして5日目です。そういう実例もあるのでしょうか?看護師に聞くと合併症と言われました。、やはりそうでしょうか?事実が知りたいです。遅くなりましたが65才女性で強度の近視です。仕事はしてます。宜しくアドバイスをお願いいたします。

  9. 頭痛は関係がありませんが、黄斑前膜の術後に黄斑円孔を生じることはあります。僕の患者さんでも数名は生じています。
    自然発症で発見が遅れるケースと異なり、再手術できちんと穴が閉じることが非常に多いかと思います。

  10. 本当に有り難う御座いました。
    昨日の一週間検診では、まだガスが抜けず写真などは良く撮れませんでしたが、徐々に見えてきています。
    患者は主治医の先生を信じないと駄目ですね。栗原先生のアドバイスのお陰です。
    頭痛ですが、高速道路やホテルなどの上階で起きます。気圧のせいでは?と勝手に思っています。今はスッキリ気分で療養して来月には仕事復帰したいと思っています。栗原先生、有り難う御座いました。良いお年をお迎え下さい(早すぎかな)

  11. 今、黄斑円孔について調べています。
    母81歳が手術を受けることになりました。
    そのことでお伺いしたくコメントに入れさせていただきました。
    黄斑円孔は左目で、診断自体は15年前にされています。
    その時も手術と言われましたが、母曰く、見え方はいたって普通で
    歪んだり、真ん中が見えるような症状はありませんでした。
    もともと、右目が悪く、ほとんど視力がなかったので、
    左目を大事にして趣味の編み物などの裁縫もしながら普通に
    生活をしていました。
    大事にしているからこそ、普段から定期的に眼科に行っており
    症状が出てわかったのではなく、定期健診でわかりました。

    その大事な方の左目に診断が出て、症状が出ているなら見えている
    方の目でもあきらめて手術したと思いますが、症状がなかったので、
    手術はしませんでした。
    そのまま、ずっと定期的に健診を受け、見え方など変わらずに今まで来ました。
    一年半前に、右目が網膜はく離になり、手術をしました。
    その手術した先生に、左目もやった方がいいと言われましたが、
    症状が未だにないため、手術しませんでした。
    ここに来て、白内障が気になり始め、白内障の手術をしたいと
    先生に話したら、せっかく白内障の手術をするなら、
    黄斑円孔の手術をしないわけには
    いかないよ、と言われました。

    私としては、先生を信頼していますが、
    母の視力がどの程度戻るのか心配でなりません。

    老夫婦二人で暮らしており、父は最近物忘れもあり
    母が面倒を見ています。
    また、趣味の編み物や地域の交流会に進んで手伝い
    料理をしたりしてふるまっています。

    なにか、ご意見をいただけたら幸いです。

  12. 基本的にはケースバイケースですが、数年前から開いている黄斑円孔を、後で手術で閉じても視力は上がりません。
    欧米では1年程度で、手術するかどうかを区切っている施設が多数です。

    白内障手術の炎症で、硝子体の牽引を生じ、網膜剥離や円孔の悪化などを起こす可能性が、極度の近視例を中心にありえますが、
    15年前から開いているとなると、標準的には手術適応はないかと・・・。そもそも15年もたっていると閉じないかと思いますし、大きな合併症が起こらなくても、黄斑を触ることで機能が落ちて視力が下がる可能性もあります。

    合併症としても、
    白内障手術後に網膜剥離を起こすリスク<<黄斑円孔の硝子体手術で術後網膜剥離を起こすリスク と思います。

    担当の先生に、
    ?白内障手術のみをした場合、どれくらいの視力が予想されるか?(白内障が進行する前の数年から10年前くらいかと)
    ?15年間開いていた黄斑円孔がうまく閉じたばあい、どれくらいの視力が期待できるものなのか?
    ?網膜剥離などの大きな合併症が起こる可能性は何%くらいか?
    ?網膜剥離などの合併症が、起こらなければ、今より視力が下がることはないか?

    というのを箇条書きで質問してみるといいかと思います。
    白内障手術だけに方針が変わるかもしれません。

  13. 黄斑円孔の手術後、穴は塞がったもののその下の層が繋がらず、視細胞が損傷しているため、もう見え方は改善されないと言われてしまいました。

    それ以上の治療はないのでしょうか?

    今手術後2ヶ月です。

    1. 下の層というのは、おそらく網膜外層と思いますが、これは半年~1年等かけて自然に回復するケースも多々あります。
      また、リハビリのように日常生活の中で、じわじわ視力が上がってくるケースがほとんどです。
      もともと2ヶ月で評価をする疾患ではありません。
      歪みは、毎日片眼で確認すると、脳の働きでより強調されてしまうです。
      両眼でみるようにしていた方が補正能力が高まりますので、片眼でのチェックは時々にすべきです。

  14. H30.7/31に網膜剥離の手術を受けた40歳男性です。術後7日に黄斑円孔になっていると言われ再手術しました。手術前の説明に黄斑円孔になる事などの説明はなく先生に聞いたらあまりない事ですと言われました。術前には穴があいてなかったのになぜ?手術失敗?研修医がサポートに入っての手術で手刀医はかなりやりにくいそうにしており視野が取れないからしっかりしてとか聞こえており大丈夫かなと思いながら手術受けていました。こんな事ってありますか?見え方の歪みが強く生活に支障をきたしており目の障害を負った感じです。網膜剥離だけならここまでならなかったのではとなんかモヤモヤしてます。失敗とは病院も認めないでしょうし。

    1. 術前に黄斑まで剥がれている場合の方が、術後黄斑円孔や黄斑前膜になりやすくなります。
      もともと黄斑は薄く弱く、穴が開きやすい組織です。網膜剥離時に一緒に起こっていることもあります。
      術前から黄斑まで剥がれてた場合、検査がうまくいかないので、円孔の合併を見逃してしまう可能性があります。
      黄斑・中心部まで剥がれていなかった場合、術後の炎症による組織のヒキツレなどで生じることはありますが、
      確率は高くなく、また、起きやすい目・起きにくい目といった具合で(例えば強度近視は発症リスクです)、
      手術が失敗したから起こるわけではありません。

  15. 黄斑円孔のオペ後一週間です。
    ガスが抜けかけているのはわかるのですが上方に黒い物がふわふわたくさん見えるのですが何故でしょうか?これはいずれなくなるものでよくあるものなのか 異常なのかすぐ受診した方が良いのか悩んでいます。 先生のお話を読み まだよく見えず不安でしたが 希望わ、持ててきました。ありがとうございます。

    1. 遅くなってすみません。もうガスも抜け、いろいろ気にならなくなってきているころでしょうか?
      基本的に動くものは大丈夫です。

      1. ありがとうございます。お返事頂けて嬉しいです。だいぶ黒い浮遊物は少なくなりましたがまだ残っています。すっかり消えることはないのでしょうか?
        また白内障のオペもしたせいか右目だけ近いところがぼやけて見えません。 左右差がありすぎてとても見づらいのですが どのタイミングで眼鏡を作ればいいのでしょうか?参考までにわかる範囲で教えてください。

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