難症例の白内障手術:CTR(水晶体嚢拡張リング)?

今日は先日の話題の続きで、難症例の白内障:CTRの利用について書いてみます。

難症例の白内障手術:CTR(水晶体嚢拡張リング)?
まず、先日記載した白内障の患者様の写真です。

外傷後の昔の治療で、写真の左下のほうは角膜(黒目)が白や黒に濁っているのですが、この部分のチン氏帯(眼内で水晶体を支える糸)が切れてしまい、瞬きをするだけでも水晶体がグラグラと揺れています。
このような症例では、通常の手術をすると手術中に水晶体嚢が縮んでしまったり、水晶体嚢ごと目の奥に落ちてしまって、眼内レンズが入れられなくなってしまうことがあります。

まず目薬の麻酔をしたあとに、簡単な注射の麻酔をして、目をあけっぱなしにする器械を付けます。

手術では上下反対になるのですが、手前側(目の上方)に白内障手術をするためのメインの傷をつけます。(この患者様は、固定内斜視と呼ばれる合併症があり、どんなに頑張っても目が正面を向けないので、少し写真が右上に寄ってしまいます。)
一般的な患者様より瞳孔(黒目)が広がりにくい患者様です。通常では、これくらいで十分手術が可能ですが、難症例の患者様では念には念を入れて、アイリス・瞳孔リトラクターという器材を使用して瞳孔を左上の方まで引っ張って広げ、安全に手術可能な術野を確保します。

CCCと言って、水晶体を包む袋(水晶体嚢)に丸い穴をあけて濁りを吸い出す準備をします。

手術では水晶体がグラグラしていると濁りを吸引しにくくなります。特に写真の右上の方のチン氏帯が弱いため、このまま濁りを吸い出すと、袋が右上から縮んでしまい眼内レンズが入らないかもしれません。

そこで、HOYA社のCTR(水晶体嚢拡張リング)の出番です。

ちょっと分かりにくいですが、上の写真の青く細いリング状の物体がCTRです。

これを水晶体嚢の袋の中に入れるのですが、手前の傷口からゆっくり丁寧に袋の中にいれはじめ、

時計回りにグルグルと袋の中に進めて行きます。

CTRが水晶体嚢の中に入ると、袋を内側から広げて支えてくれるので、水晶体嚢(袋)が全体的に安定します。

濁りを安全に吸引可能できました。


濁りがなくなったら、

レンズを入れて、キレイに手術が終わりました。
CTRがなければ1時間以上かかるような手術で、眼球への負担が大きくなったり合併症のリスクも大きかった症例ですが、20分弱の手術で安全に行うことができました。術後にも喜んで頂けてよかったです。

*CTRはとても有用な手術補助器具ですが、当院では主に外傷例など特殊な症例のみに限って使用しています。外傷例ではチン氏帯が弱っている場所が一部分など限定的(局所的)ですが、チン氏帯が弱る他の原因(加齢に伴うものや、PE症候群に伴うもの)などでは全体的に弱っていることが多いため、手術はどうにか上手くいっても、それ以降の加齢に伴ってCTRごと眼内レンズが目の奥に落ちてしまうことがあるからです(眼内レンズ落下・眼内レンズ脱臼
例えば、95歳であと5年は持つだろうと自信を持てる時はいいのですが、70歳でCTRを使用して、あと20年もつかというと結構厳しいものがあります。もしあとからレンズが落下してしまうと、硝子体手術などのより難しい手術でレンズとCTRを取り出して、新しい眼内レンズを縫い付ける。なんていう複雑な手術が、80代とかより高齢の時期に必要となってしまうリスクがあります。それなら最初の手術でしっかりとレンズを眼内に縫い付けた方が安心なのでは?と思うのです。
当院の白内障手術でCTRを使うのは0.1%程度の症例ですが、世の中には「CTRを沢山使っているが、術後に問題が起こったことがない。」と仰る有名な先生もいます。実際にはそうではありません。白内障手術で急にCTRが必要になった場合には、手術時間が思ったより長かったり、痛みも強めだったりと、「予定と違った」と患者さんの満足度が低かったり、信頼関係が築けていない場合が多くなります。このような患者様が、レンズが落下して急に見えにくくなった場合には、もとの眼科さんではない眼科さんに転院してしまうことも多いのです。
実際に、今までにCTRとレンズが落下して、僕が拾い出したという症例は、もともとは全員他の医院様で手術を受けた症例です。有名な大学病院でCTRを使って、他の医院で修正手術を受けているなんて言うことが思ったより多くあり、そのことを術者の先生は知らないだけだったりするのです。

“難症例の白内障手術:CTR(水晶体嚢拡張リング)?” への3件の返信

  1. 昨日、大学病院で白内障手術を受けました。その際、CTRを入れました。手術途中で、急に決めたようです。数年後、レンズが落下するかも知れないとのこと、とても不安です。まだ50代で、働く必要もあります。どうして縫い付けなかったのか? 主治医へ相談してみます。

    1. 原因や状況によって、何が正しいということはできません。
      縫い付けたケースで、10年20年後に別の合併症が起こることも否定はできませんし、
      縫い付ける手術のほうが、乱視などの誤差は大きくなります。
      結果論として数十年単位でレンズがもつなら、今回の判断は正しかったでしょうし、
      数十年後には、もっと安全で簡単な良い医療が期待できます。

      また、バックアップレンズとして、縫い付け用のレンズを用意していなかった場合、
      しばらくの間、重度のピンボケ状態で過ごし、再度手術をする必要があります。
      (もともと弱いことが判明しているケースは別ですし、通常、多少のバックアップは常備していますが、
      全員に完璧なバックアップを用意することは、不良在庫が増えてしまい、経営上なりたちません。)

      もちろん、状態によっては縫い付けの方がよかったケースもありえますが、
      納得できるように、説明をしてもらうのは信頼関係の点からもよいことかと思います。

      どちらにしても定期検診が重要で、完全に落下する前に、レンズがズレだしたら
      ひどくなる前に手術をうけられるようにしていく必要はあります。

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