白内障手術 入院か日帰りか

今日は土曜日で、開業医様で硝子体手術を12件、白内障や翼状片などを十数件担当しました。その後、網膜剥離の緊急手術のため夕方から別の開業医様に移動。黄斑(視界の中心部)がはがれていたので、週明けまで待ってもらうよりよい結果になると思います。土曜日に手術をすると日曜日にも診察が必須です。開業医の先生たちは通常、日曜日に診療をすることは少ないと思いますが、僕の周りには熱心な先生たちが多くて、自分も頑張らなくてはですね。

さて、今日の開業医様では両眼の白内障や硝子体手術を行った患者さんがいましたが、特に硝子体の手術後は麻酔が切れるまでの数時間は見えないので、近くの病院に入院して観察するそうです。
白内障手術は両眼同時でも手術の直後からある程度は見えてしまうので、基本的には外来手術で十分ですが、希望によって入院するかたもおられます。
今日は、外来でよく質問を受ける、「入院か日帰りか?」について書いてみます。

白内障手術 入院?日帰り?

1.基本的には日帰りで十分な手術です。
歯医者さんで虫歯の治療をした時に、入院しよう。とは思わないですよね?
全身麻酔で心臓やおなかを切る手術と異なり、白内障治療は通常は点眼麻酔(目薬の麻酔)で施行します。全身麻酔のようなトラブルもありませんし、意識もなくならず、手術中は僕たちと世間話などをして過ごします。
当院ではほとんどの症例で、両眼を同時に行いますが、眼帯もせずに手術直後からある程度見えるので、付き添いは必要ですが特に問題なくお帰り頂けます。
そもそも欧米では、白内障手術では保険を使って入院することはできないそうです。それくらい簡単で、安全性の高い手術と考えられています。
費用も日帰り手術の方が安価になります。

患者様やご家族様から「入院の方が安全ですか?」という質問が多々あります。
答えはNOです。白内障手術で最も怖い合併症は、眼内炎といってバイ菌の感染によるものですが、入院だからキレイとか、自宅だから汚い。ということは言えません。そもそも病院は無菌ではありません。少しの風邪で内科を受診したら、待合室でインフルエンザをもらってきた。なんて笑い話がありますが、病院は病気の人、咳をする人、弱っている人、メヤニが出る人が密集する場所です。キチンと掃除や換気をすれば、ご自宅の方が細菌が少ないこともあるのです。
報告にもよりますが、中には入院の方が眼内炎の発症率が高いという報告があります。これは、病院が危ないというよりは、もともと体が弱っている人、合併症になりやすい人が入院を選ぶことによって起こった、統計的な偏り(バイアス)と思われますが、どちらにしても入院の方が安全ということはないようです。
ちなみに、僕は白内障手術を十数年間、かなりの患者さんを執刀していますが、今まで感染症を起こしたことがありません。なので、日帰りと入院の成績を比べることはできませんが、あまり起こらない合併症と考えてよいでしょう。
*術後3?4日程度は洗顔ができない。手術後は目薬をきちんとつけるなどは、入院でも日帰りでも守らなくてはいけません。

2.入院が望ましい場合
では、全員が日帰りがよいのかというと、そうではありません。例えば以下のような場合には入院の方がよいかと思います。
・一人暮らし
万が一にも、夜間に具合が悪くなった場合などに、視力が悪くて電話がかけられないなど、病院に連絡が取れない場合は困ってしまいます。 
・送り迎えや通院が困難
基本的にはどんな日帰り手術も、何かあった時に1時間以内に受診ができることが望ましいと考えられています。手術直後は自分での運転が難しいので、送迎や付き添いが困難であったり、遠かったり、交通手段が不便である場合などは、もしもの場合のために入院が望ましいと思います。
*これは、医療サイドの受け入れも同じです。開業医様など入院設備のない医院で手術を受ける場合、ほとんどないとはいえ、ごく稀にでも強い痛みが出たときや、もしも転んで目をぶつけてしまったときなど、緊急時は夜間でも連絡がとれるのか?、どのように処置をしてもらえるのかどうか?などはよく相談して、手術する医院を選びましょう。
・一部の認知症の方
多くの認知症の方は、入院によって環境が変わってしまうと、認知症が一過性に悪化してしまうようです。ですので、日帰りの方が望ましくなります。ただし、認知症の程度や、家族構成(特に一人暮らしなど)によっては、通院の予約が分からなくなってしまったり、手術後の目薬を理解できなくなってしまうケースもありえます。総合的に判断して、入院が望ましい場合もあるでしょう。

このように書くと、多くの方が外来手術ですみそうですが、実はそうではありません。実際には、一人暮らしの高齢者はどんどん増えていますし、茨城県では手術をする眼科医の数が少なく(医療過疎)、当院にも1時間以上かけて受診される方が数えられないほどいらっしゃいます。当院では全体として外来手術の方が多いですが、入院が必要・必須なケースも確実に存在するのです。

さて、H26年4月に診療報酬改定がありました。
20床以上の病院に入院して白内障手術を受ける場合、片目のみの手術で退院する場合は、診療報酬が高くなって病院の利益が大きくなります。逆に、1回の入院で両眼の手術をすると病院が赤字になってしまうという特殊なルールができました。
当たり前ですが、病院も赤字ではやっていけませんので、片目が終わったら1回退院して、あとで再度入院して反対の目。という面倒なことが必要になったのです。
厚労省の狙いは、医療費削減のために、入院を不便・高額にさせて、安くすむ日帰り手術を増やそう。というものだと思いますが、もともと入院を選ぶ人は、それなりに理由があって入院を希望します。もし、入院を希望する患者さんが少なくならなければ、医療費削減どころか医療費が増加してしまうのですが、2年後の診療報酬改定までにはうまくいったのかが判明するのでしょう。

当院は幸い19床のクリニックであり上記のルールに該当しませんでした。当院ではこれまで通り両眼の白内障手術が2泊3日の1回の入院で行えます。時間も費用も非常にお得な医院となってしまったので、患者さんにとってはとてもよい医院なのではないでしょうか?
ただ、自分自身では最高の手術機械と最高のレンズを使用して、そして手術技術を磨くため誰より研鑽しているつもりですが、当院で行う白内障手術よりも、他の20床以上の病院で行う手術の方が、保険点数が高いというのはちょっと寂しく思います。僕の手術よりも、大学病院の研修医の先生の手術の方が点数が高いなんて。
保険診療って公平なはずなのに、医院の規模で差がでるのは少し納得がいかないと思うのは僕だけでしょうか・・・。(医療サイドだけではなく、同じ医療に患者さんが支払う医療費も、施設によって異なります。)

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