前嚢収縮(ぜんのうしゅうしゅく)

11月28日から30日に、大阪で学会が開かれています。2週前に神戸の学会で発表したばかりですが、本日再び関西へ。
僕は、「YAGレーザーによる術前処置を施した硝子体手術時の前嚢収縮の切除効率と安全性」という演題での発表となります。

硝子体学会なのですが、前嚢収縮という病態自体は、白内障手術に関連するものです。今日は、まず前嚢収縮についての記載をしてみたいと思います。
前嚢収縮(ぜんのうしゅうしゅく)
近年の白内障手術では、濁った水晶体・レンズを丸々交換するのではなく、濁りを包んでいる透明な袋(水晶体嚢)の前面に丸い穴をあけ(CCC)、内部の濁りのみを取り出して、残った袋に人工のレンズを入れる。ということが行われています。(⇒白内障手術の詳細は以前のブログを参照
手術中は、濁りをできる限り残さずにキレイに掃除するのですが、残念ながら細胞レベルではある程度の濁りは残ってしまいます。多くの方では、濁りの細胞が少しくらい残っても問題なく経過するのですが、一部の患者様で濁りの細胞が分裂・増殖し、形を変えてレンズの周囲で広がってしまうことがあります。
レンズの後面に濁りが広がった場合は、後発白内障と呼ばれます。後発白内障は視力低下に直結するため、YAGレーザーというレーザー光線によって濁りを除去する簡単な治療が行われます。(⇒後発白内障は以前のブログを参照
逆に、レンズの前面、水晶体を包んでいた袋(水晶体嚢)に開けた穴(CCC)の周囲で、濁りの細胞が増殖し、穴が閉じてきてしまうような病態を、前嚢収縮と呼びます。

赤矢印の先、白いリング状の濁りが前嚢収縮です。濁っている部分は光がとおらないため、視界が狭くなります。

前嚢収縮によって起こる症状
・コントラスト感度の低下
  (白と黒は判別しやすくても、白と灰色は判別しにくいなど)
・グレア
  (夜間のライトのまぶしさなど)
・眼内レンズの偏心・変位・傾斜
  (袋のヒキツレによって、中のレンズがずれる)
・視野の狭窄、視力低下
  (収縮・混濁が中心近くに及んだ場合に発生)
・眼内レンズ落下
  (中等度?重度の場合に起こりえます)
とくに、近年使用頻度が増えている、非球面レンズ、乱視用トーリックレンズ、多焦点レンズなどの高性能レンズは偏心・変位・傾斜によって、本来の性能を発揮できなかったり、逆に通常のレンズよりも見えにくくなってしまうことがあり、術後の診察で前嚢収縮を見た場合には、きちんと治療をする必要があるのですが、なぜだか日本の先生は、中心視力が低下するほど重度の前嚢収縮になるまで治療をせずに放置をする場合が多いようです。(治療によって、ある程度の偏心は戻りますが、重度のものや乱視の軸が大きくずれてしまった場合は完全には戻せません。)

前嚢収縮を起こしやすいケース
・年齢が若い
  (残った濁りの細胞の細胞分裂能力が高い)
・術後炎症が強い
  (手術が長引いたり、手術後の点眼薬をサボったりする方)
・糖尿病の方
・網膜色素変性症の方
・PE/落屑症候群
  (瞳孔周囲に白いフケ様物質のたまる体質の持ち主)
・他の手術との同時手術
  (硝子体手術や緑内障手術)
通常、強い前嚢収縮は数週間?半年程度で生じ、軽度のものでは、その後も長期間をかけてゆっくりとは進行するものもあります。
当院では標準的には白内障手術後、翌日、1週後、さらに2週後、さらに1ヶ月後、さらに2ヶ月後、さらに4ヶ月後というスケジュールで診察をしています。その後は1年か2年に1回の定期検診をお勧めしています。
稀に、「白内障手術後の検査なんて、1ヶ月もみれば十分」とおっしゃる先生がいますが、そういう先生は球面の単焦点レンズしか使用しないのでしょうか?トーリックレンズをいれて、もし収縮が起こって強く偏心してしまったらどうするのだろう?非球面レンズが逆に視力を低下させてしまったらどうするのだろう?と多々不思議に思います。

治療法
後発白内障と同じく、YAGレーザーというレーザー光線を照射して、その衝撃で前嚢収縮を切開します。切開を入れると張力によって小さくなったCCCが広がり、その後の収縮を抑制してくれます。

上記でで紹介した同じ症例の治療後です。YAGレーザーの切開により、混濁した白いリングが広がり、光が通過する範囲が広がっています。(後発白内障も同時に治療)
教科書的には糖尿病の方など、上述したようなリスクの高い症例では、軽度の前嚢収縮であっても予防的に前嚢の切開をしておくべきとされています。
目薬の麻酔薬を使用して、痛みもない2分程度の治療です。治療直後から洗顔洗髪含めて制限はありませんが、2週間ほど目薬を付ける必要があります。
この治療、保険点数がついていないようで??、当院ではリスクの高い症例などでは無料でYAGレーザーを施行しています。
(後発白内障と同時に治療する場合もあり、その場合は1割負担で1000円強、3割で3000円強の費用がかかります。)

“前嚢収縮(ぜんのうしゅうしゅく)” への2件の返信

  1. 白内障と脳血管障害の関係性の理由はなんでしょうか、、、
    ヒルシュバーグ分類の既往歴に白内障とあったので気になります

    1. すみません。質問の意図が不明です。
      Hirschbergというと眼科では斜視の検査がメインです。
      大昔の糖尿病の分類がありましたが、何についての記載なのでしょうか?
      申し訳ありません。

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