網膜色素変性症

今日は午前が小美玉、午後がクリニックです。普段は午後の外来は比較的すいているのですが、今日は午後だけで40名以上と、ちょっと疲れました・・・。

網膜色素変性症(もうまくしきそへんせいしょう)
(杆体錐体ジストロフィー)

網膜色素変性症は目の中のカメラでいえばフィルムに相当する網膜という膜に異常をきたす病気です。網膜は目の中に入ってきた光を、電気などの神経の刺激に変換する働きをしています。網膜と言っても、様々な種類の細胞から成り立っているのですが、光を感じ取るに最も重要な視細胞や、色素上皮細胞(視細胞を栄養する働き等があり、眼底写真のオレンジ色は色素上皮細胞によります)を、特に障害します。

疫学
日本では数千人に1名の有病率とされていますが、大人になってから失明する(中途失明)の3大原因の一つとなっています。

原因・遺伝
遺伝子の異常によって起こされる疾患であり、病気の原因となる数種類の遺伝子が見つかっていますが、まだまだ原因の分かっていない遺伝子・症例の方が大多数であり、原因不明と評されることが多くあります。
両親や祖父祖母などから遺伝する場合が約半数とされ、残りの半数は家族内に同じ病気の人がいない、弧発例といって明らかな遺伝ではない症例とされています。

症状
初期には暗い所で見えずらい。などの症状が有名です。(夜盲、鳥目)
網膜の視細胞には、杆体と錐体と呼ばれる2種類の細胞があります。杆体は視野の周辺部を担当する部位に多く存在し、明るさなどの感覚を主に担当します。錐体は視野の中心部を担当する部位に多く存在し、細かい視力や色覚などを主に担当します。
網膜色素変性症(杆体錐体ジストロフィー)は、杆体・錐体の両方とも侵す疾患ですが、とくに杆体を中心に障害することが多く、暗いところでの見え方が悪くなることで有名です。
一般的には、杆体は周辺部の視野を担当しているために、周辺の視野が狭くなり(求心性視野狭窄)、徐々に中央部に迫って、全ての杆体錐体が侵された場合に失明となります。
(病状や、遺伝の形式も多種多様で、中心から見えなくなる方など、症状にもかなり個人差があります。)

予後
基本的には進行性の病気です。非常に早く進行し数年で失明に至る症例もおりますが、ほとんどの症例はとてもゆっくりと進行します。失明に至るのは病気を発症した人のうち0.5%(200名1人)と報告されていますので、過度に失明を心配する必要はありません。

治療法
残念ながら現在の医学では治療法は見つかっていません。研究段階では遺伝子治療や、人工網膜などによる治療の報告があり、近年は実際に人体への治療を開始したグループもあります。将来的には治療可能な疾患となる日が来るものと信じています。

ロービジョンケア
回復させることは困難ですが、眩しさを軽減するために遮光眼鏡を使用したり、視野が狭くなった場合に残った視野を少しでも有効に使用するための特殊機器を使用することがあります。
2011.05.09のブログ「ロービジョンケア」もご参照ください。
日光などの強い光は、網膜色素変性症を悪化させる原因の一つと言われています。あまり晴れている日の外出時には、つばのある帽子をかぶったり、サングラスを使用することも重要です。(紫外線や青色の光が悪化させるとの認識が多いですが、それ以外の波長の光も悪化の原因になるとの報告もあり、あまりに明るい電球なども見つめない方がよいでしょう。)

特定疾患(難病)・視覚障害
特定疾患とは、国が決めた難病のうち、申請・登録することで医療費の扶助が受けられるなどの疾患です。医師の書いた診断書を保健所に申請することが必要です。病気のデータを集めることで、病気の解明や治療法の開発にも役立ちます。
また、症例によっては視覚障害に該当する場合には、申請することで、等級によってですが、様々な補助が受けられるようになります。


これは、普通の方の眼底写真と、蛍光眼底造影検査になります。



これは、先日当院で診断した40代男性の患者様になります。網膜のオレンジ色が全体として灰色のように薄くなり、ところどころ黒い斑点を認めます。網膜の血管が細くなっているのも特徴的な所見です。中心部の方がオレンジ色がしっかりしているのは、周辺部の杆体に比べて、中心部の錐体と呼ばれる細胞の方がまだ元気だからです。


同じ患者様の視野検査です。中心部(錐体)はまだ侵されていないため、視力は1.0異常と良好です。周辺部の杆体がリング状に侵されており、その部位が見えなくなっているために、リング状に視野が欠けています(青く塗りつぶした部分が見えない)。運転や歩行などには注意する必要があります。


同じ人の網膜電図(ERG)と呼ばれる検査結果です。ERGは簡単にいうと脳波のようなものです。光刺激を与えると元気な網膜には大きな電気が流れ、波形が動きますが、元気のない網膜では電気の発生が弱く、波形が平坦となります。網膜色素変性症では、発症早期からERGの波形が平坦化することが知られており、診断に重要な検査です。(脳波が平坦な場合は脳死になります)

こういう治療法が見つかっていない病気であることを、患者様に伝えるのはちょっと厳しいです。遺伝子の問題はご本人には何の責任もありません。早く治療が可能な時代が来るといいのですが。

白内障手術 硝子体手術 眼科手術専門 山王台病院 附属 眼科内科クリニック
(茨城県 石岡市 小美玉市 かすみがうら市 土浦市 笠間市 鉾田市)

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