黄斑(おうはん)

今日は以下の手術を行いました。
・白内障手術 8件
・網膜硝子体手術(茎離断)1件(黄斑円孔)
無事に終わりました。

黄斑円孔は物を見る中心部の網膜(黄斑)に穴が開いてしまう病気です。数えてみると、開院後2年間では28件の手術があったようで、月に1件ちょっとのはず。ところが、本日も初診の患者様に黄斑円孔が・・・。黄斑円孔も早目の手術が望ましいので、さっそく明後日手術の予定に。
網膜剥離とか、急性緑内障とか、黄斑円孔とか。手術を急がなくちゃいけない病気って、なんだか妙に続く印象があるのですが、気のせいかな??
せっかくなので、黄斑円孔のことを書いて行こうかなと。
でも、その前に、まずは黄斑について。

黄斑(おうはん)

図のように、目の中に黒目(角膜)側から光が入ってきて、水晶体(青矢印)などで光が屈折して、眼球の奥、眼底・網膜(赤矢印)で焦点があうと物がよく見えます。水晶体がレンズ、網膜がフィルムにそれぞれ該当し、よく眼球はカメラに例えられます。(最近はデジカメが主流で今後変わっていきそうですが・・・。)
このフィルムに該当する、「網膜の中央部」、物をみる真ん中の部分を黄斑(おうはん)と呼びます。

眼底写真では、黄斑は青矢印の部分で、正常な人では少し黄色というかオレンジが濃くうつります。黄色は、キサントフィルと呼ばれる紫外線を吸収し、細胞を守る成分から来ています。
黄斑の病気はOCTで観察するとも多いのですが、

正常な黄斑は他の網膜よりも少し薄い構造で、なだらかなカーブを描いて、少し凹んだ形をとります。(陥凹:かんおう)

黄斑は、光を感じ取る細胞である視細胞が極端に多い組織で、細かいものを識別したり、色を把握することなどに長けています。
黄斑部から離れるほど、視細胞は少なくなっていくので、視力として細かいものを判別する能力が落ちていきます。
例えば、「あかさたな」と、書いてあるのは通常に読めると思います。

では、このを見て、目をそらさない状態のままで下の文章を読むことはできますか?

直接文字を見れば、もちろん読めますが、上の星印を見たままでは難しいですよね?何か書いてあるのは分かっても、識別して読み進めることは困難です。
なので、もしも黄斑部に病気が起こって、中心部の見え方が奪われた場合には、見たい部分が見えなくなり、視力の数値が極端に悪くなり、文字を読んだり、細かいものを識別することができなくなってしまうのです

他に黄斑は、物を見るということのみに長けている一方、血管や血流が乏しかったり、組織を支えるための骨組となる細胞の数が少ないことから、構造として脆い組織であり、「病気が起こりやすい」といった特徴もあります。紫外線が集中しやすいのも病気の一因となります。

黄斑に起こる病気としては、黄斑の文字を使用したものでは、
?黄斑前膜
?黄斑円孔
?加齢黄斑変性症
?黄斑浮腫(糖尿病、静脈閉塞症、動脈瘤、ぶどう膜炎などで黄斑がむくむ)
?黄斑ジストロフィー

などがあります。

また、網膜剥離が黄斑に広がった場合など、黄斑部以外に発症した病気が、黄斑に及んだ場合にも著しく視力が低下します。

網膜の解像度と、視力の正常値

今日の午前外来は、連休の半ばで、学校健診で指摘されたお子さんや、普段仕事で病院を受診しにくい人が多く、60名ちょっといらっしゃいました。
午後は小美玉市医療センターで手術でしたが、眼瞼下垂と翼状片を3件づつ施行しました。

網膜の解像度と、視力の正常値
テレビの画面や、パソコンのモニターの進歩がすごいですよね。
一つ一つのピクセル・ドットが人間の目に負えない。なんていうのが、ipadの画面の特徴で、Retina displayなんて呼ばれています。(retinaは網膜の意)

左の図よりも、右の図の方がキレイに滑らかに見えますよね?左側は15×15のマ
スから出来ていますが、右は19×19のマスで出来ています。
このマス目が細かければ細かいほど解像度が高いと言えるわけです。

人間の網膜は、中心部(黄斑部)に近いほど、視細胞と呼ばれる、光を感じ取る細胞が数多く配置され、解像度が増す構造をしています。

基本的には、視細胞が多く、解像度が高ければ高いほど、視力が上昇します。
逆に、加齢や病気で網膜・視細胞が死んでしまって、数が少なければ、解像度が落ちますので、視力が下がるのです。

自分の持っている解像度を最大限に引き出すには、網膜上にピントが合う必要があり、近くや遠くを見る場合に、適切なメガネをかけた場合の視力を矯正視力といいます。

「白内障手術をして、遠くにピントを合わせたら、裸眼で1.0が見えますか?」
という質問をよく受けるのですが、答えは「やってみないと、分からない。」となってしまいます。
白内障手術によって、目の中の濁りを除去したり、近くや遠くのピントを合わせたり、乱視を軽減することは可能になりましたが、同じように手術を行った2名がいたとして、手術後の近視や遠視の度数が全く同じでも、2名の網膜の解像度が違えば、視力の数値も異なるのです。

網膜や黄斑の病気があれば、視細胞が少なく、解像度が悪く、視力測定の数値で1.0出ませんし、特に病気がなくても、視力の数値には個人差があります。
例えば、日本人の殆どの方は、若い時にはメガネやコンタクトを使用すれば1.0?1.5の視力が出ることが多いようですが、全く問題がなくても、視力が弱い家系などで0.8とか0.9までしか見えない人も時々いますし、逆に2.0見える人や、100人に1人くらいは3.0とか見えちゃう人もいます。
テレビとかで、よくやっていますが、アフリカ人などで6.0とか見えちゃう人もいますよね。
視力、網膜の解像度は、人種や個人差があり、これが正常。ということはないようです。
ただし、多くの方が1.0が見えることが多いですし、自動車の運転免許証に必要な0.7が見えないという人は非常に稀です。ですので、本当は間違っているのですが、確立の上では大丈夫だろう(普通は大丈夫だろう)という観点から、大きな病気がない場合の白内障手術の説明では、「手術後は、裸眼で運転できる可能性が非常に高いですよ。」と説明をしてしまう事が多くなります。

(一般の方に分かりやすく。と思って記載しています。本来は網膜の視細胞の数だけで決まる問題ではなく、各細胞間の信号の連携や、脳の映像処理能力なども視力に大きく影響します。また、白黒の識別だけでなく、人間には三原色(赤・緑・青)に関して、それぞれ解像度を持った視細胞が並び、これらも複雑に絡み合った構造をとっています。関係ないですが、鳥類などは紫外線などを認識する細胞もあり、4原色を認識できると言われています。)

3月にipadを買ってみたのですが、
http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=141015
僕の目では確かに、一つ一つのピクセルを識別することはできませんでした。これぞRetina display!
そこで、手術用の顕微鏡で拡大してみたのですが、

拡大すれば、ちゃんとピクセルが認識できるようです。僕は眼鏡をかけて2.0程度の視力、解像度を識別する能力があるのですが、視力が6.0とかのアフリカ人とかは、単純な計算では僕の3倍細かいものを識別する能力があるので、もしかしたらipadのピクセルも認識できるのかもしれません。

ついでに。

顕微鏡の照明をオンにすると、こんなふうになってしまい、よく見えなくなってしまいました。外からの光は散乱?乱反射させることで、明るい場所でも反射を起こさずに画面を見やすくするためでしょうか。アップルの特許かな?ちょっと僕には解明不能な分野です・・・。

老人環(ろうじんかん)

今日は他院の先生に手術見学にきて頂き、以下の手術を行いました。
・翼状片手術 1件
・内斜視手術 1件(脳出血後麻痺性斜視)
・白内障手術 11件
・眼内レンズ縫着術 1件(他院術後の無水晶体眼)
・網膜硝子体手術 3件(茎離断2件、切除1件)
 (糖尿病黄斑浮腫1件、黄斑前膜1件、硝子体混濁1件)
無事に終わりました。

今日、外来で受けた質問の話題で。
老人環(ろうじんかん)
月に1回くらい、中高年?比較的高齢の女性が、「黒目の部分が白く濁ってきた。」と心配になって受診することがあります。
今日いらっしゃった患者様も、「久しぶりに鏡をみたら、黒目の内側が丸く、白く濁っていてビックリしてきた。」という訴えで受診となりました。68歳の女性です。
写真はこんな感じ。

黒目(角膜)の輪郭のあたり、赤矢印のあたりに、白から少し黄色っぽく濁りを認めます。
本来、黒目(角膜)は透明な臓器なのですが、加齢によって血管や血流に変化が起こり、血管から漏れ出した脂質(リポ蛋白など)が、透明なはずの角膜内に貯留してしまい濁って見えるようになります。
通常は、角膜の上方や下方の周辺部から濁りが出現し、次第に広がり、1周ぐるっと濁りがつながってしまいます。濁りは角膜の周辺部のみに出現し、視界にかかる中心部にまで広がることはないため、視力や見え方には影響はしません。
角膜の一番端っこから濁りが出来るのではなく、青矢印の先のように、ちょっとだけ透明な部分(透明帯)が残って、その内側がリング状に濁っていきます。

見た目を気にして受診される女性が多いのですが、残念ながら治療法はありません。今の医学ではキレイにしてあげることは出来ないようです。

しかも、この濁りのことを質問された場合、説明をするのがとっても嫌なのです。最初に書いたのですが、病名は「老人環:ろうじんかん」。見た目を気にして病院に来るので、年齢とか、加齢とかという言葉が嫌いそうな人が多いのですが、老人環って、ヒドイ名前ですよね・・・。加齢環のほうがまだいいかと。脂質環とかでもいいかも。
基本的にちょっと見栄えが悪いですが、悪い病気ではなく、ちょっと見栄えに影響する。といった状態です。

そういうわけで、残念ながら年齢による変化という説明となってしまうのですが、稀に30歳とか40歳で濁りが出てしまう事があります。この場合の名前もちょっと変なのですが、「若年環:じゃくねんかん」なんて呼びます。あまりに若い年齢で若年環が出来る時には、高脂血症、高コレステロール血症などが隠れていることがあり、内科への受診を勧める事があります。

今日もお読み頂き、ありがとうございました。

瞳孔膜遺残

今日は以下の手術を行いました。
・結膜腫瘍切除 1件
・白内障手術 7件
・網膜硝子体手術 1件(硝子体出血)
問題なく終わりました。

今日の手術症例から1例お話を。
瞳孔膜遺残(どうこうまくいざん)
瞳孔とは、茶目の中心部の黒目の部分で、茶色い虹彩によって形作られる、丸い穴の事を言います。明るい場所では瞳孔が小さくなり、目の中に入る光を減らしたり、暗い場所では瞳孔を大きくして、目の中に多くの光を取り入れようとしたりと、瞳孔には目の中に入る光の量をコントロールする役割があります。
赤ちゃんが母親のお腹の中で、眼球を形成していく過程では、実は瞳孔は丸い穴ではんなく、血管の組織に富んだ膜で覆われ、ふさがっています。この血管に富んだ膜のことを瞳孔膜と呼び、瞳孔膜は水晶体に栄養を与えるなどして、眼球の形成に役立っています
瞳孔膜は通常は出生までに、委縮して消失していくのですが、何らかの間違いで、瞳孔膜が残ってしまう異常を瞳孔膜遺残といいます。

本日の症例の写真です。
光が入る道筋に、光をさえぎるものがあるので、なんとなく見にくいだろうな?というように思いますが、実は瞳孔膜遺残のほとんどは症状がありません。瞳孔膜遺残は、世の中でもっとも多い先天異常(生まれつきの異常)の一つですが、弱視等の問題を起こすことはほとんどなく、稀にみる超重症例や、たまたま光の侵入経路の中心部を邪魔するような膜が残った場合のみに、問題となります。

外来ではちょこちょこ目にする異常ですが、生まれたばかりの小児にみつけた場合では、多くの場合に、生後数ヶ月とか、1?2年くらいうすると、勝手に小さくなってしまいます。
まれですが、実際に瞳孔の中心部を瞳孔膜が覆い、視力を阻害してしまう場合があります。この場合には、瞳孔を開く目薬等を使用して、瞳孔膜遺残が瞳孔の中心部を避けるようにする治療を行うことがあります。

今日の症例ですが、左が何もしない時、右が瞳孔を開いた場合です。瞳孔を開くことによって光が通る道筋に変化が出ることが分かりますか?
また、稀ですが、YAGレーザーという特殊な光線で、瞳孔膜の一部を弾き飛ばして、瞳孔膜を除去してしまうという治療を行う場合もあります。

なんて、治療について書いてみましたが、僕の人生で瞳孔膜遺残の症例は数え切れないほどみていますが、点眼薬で治療したのは1例、YAGレーザも1例のみで、ほとんどが無治療で済んでしまうようです。

超重症例では、手術で切除するのでしょうが、小児期に手術を必要とした症例にはまだ出会ったことがありません。

今日の患者様は、白内障の手術目的に、紹介となった患者様です。
瞳孔膜の手術というよりは、白内障のついでに切除してしまったのですが、

こんな感じで、瞳孔を開いた後に、ハサミで瞳孔膜をちょきちょき切ってしまいます。

その後は、通常通りの白内障手術が可能です。

明日は祝日ですが、手術患者様のみは診察があります。きっと今日の患者様も視力が上がって喜んでくれるはず。期待大です!!

マリオット盲点  栗棒?

かなり寒くなってきましたね!

久しぶりに娘と朝の散歩に行ったら、健康のためどころか、風邪を引くんじゃないかと・・・。次回はちゃんと厚手の服装をさせなくちゃ。

今日は病気とは別に、目の面白い機能について。
マリオット盲点(まりおっともうてん)
マ盲点や、生理的暗点などとも呼ばれます。人間はもちろん、脊椎動物全てに存在する、視野の欠損する部位の事です。

黒目(角膜)から入ってきた光は、目の奥の方のフィルム(網膜)に当たります。網膜は一つの束(視神経)になって、最終的には脳ミソにつながり、「物が見える」という事になります。

図の赤矢印の部分は視神経乳頭と言って、網膜が集まって束になる部分なのですが、実はこの部位のみ光を感じ取ることはできないのです。

写真だと水色の部分が視神経乳頭(マ盲点)になります。ちなみに、物を見る中心部の網膜は黄斑と呼ばれ、オレンジの矢印に当たります。

自覚的には、マリオット盲点(視野が欠けて見えない部分)は、視界の中央から少し外側に存在します。(正確には、中心部から外側に15度位の部位)

そうは言われても、「視野が欠けている??私はそんな場所ない!!」って思いますよね??
人間の脳は非常によく出来ていて、眼球としては光を感じない部位が存在しても、脳ミソ的には、その部位を「黒」とはしないで、その周りの色をクシャっと引き寄せて、あたかも何かが存在しているように画像を変換してしまうのです(filling inと呼ばれます)。

では、信じられない!と言う人のために。
まず、右手を顔の高さで、前方にしっかりと伸ばします。
次に、写真のように、親指と小指のみを軽く伸ばします。

左目を閉じて、右目で、親指の爪(赤丸)をじっと見つめます。
小指が上の方を向いている時には、親指の爪を見ていても、小指の先(青丸)も視野の中で認識が出来ると思います。
そこから、親指の爪を見たままの状態で、腕を時計回りにゆっくりと回していき、小指が親指と水平の部位に来るようにします。

こんな感じ。すると、親指の爪を見ていると、小指が見えなくなっていると思います。この見えない範囲がマリオット盲点です。

どうでしょう?出来ました??
他には、紙に☆を横に5cmくらい離して書いて、紙を顔に近づけて、右目のみで、左側の☆を見続けます。そこから紙を離していくと、右側の☆がなくなる部位が見つかる。なんて方法もあります。

マリオット盲点というのは、全人類に存在するもので、見えないことは病気ではありません。
マリオット盲点以外の部位が欠ける場合は病気となるのですが、視野が欠ける代表的な疾患として、緑内障があります(日本人の失明の原因の第一位)。
マリオット盲点を認識しづらいのと同様に、実は、緑内障で視野が欠けた場合も初期の段階では気が付きにくいのです。(初めて病院に来る時には、末期だったんてことがよくあります。)
人間ドックで指摘されたり、メヤニなど他の理由で眼科を受診したときに、幸運なことに初期の緑内障が見つかった場合には、早期から治療ができるのですが、自覚症状がないと、通院や治療が途切れてしまう事が多いことも問題です。

僕は治療をサボってしまう人に、視野が欠けることを認識してもらったり、そして普段は、そのことに気がつかない。と言う事を伝えるために、マリオット盲点が見えないという事を実践してもらう事があります。
(マリオット盲点は病気ではありませんが、みなさん、まさか視野が欠けている。なんて思っていないので、ビックリするようです。すると、急に緑内障の治療に積極的になってくれます。脅しているようで申し訳ないですが、結局は患者さんのため。)

いつも、上記のような指を使った説明や、紙に書いたり、ペンを使ったり。どうにかマリオット盲点を分かってもらおうとするのですが、なかなか上手くいかない時もあります。(高齢の方などでは、親指を見て!と言っても、ついつい、小指の方を探して見てしまうんですよね・・・。)

そこで、以前から作りたいと思っていた物を昨日作ってみました!

カインズホームで、S字フック98円、ビニールテープ28円X2色で、計154円。
S字フックを切断して、曲げて、ビニールテープを張り付けると、

こんな感じ。

実際には、長いほうの先を目の下に当てて、

赤のテープを見ていて頂いても、黄色も認識できますが、
指の時と同じように、ゆっくりと回すと、

赤を見ていると、黄色が見えなくなります。

今日、さっそく患者さん10名くらい、スタッフにも実験してたのですが、
みんな、視野が欠けている事を実感したようで、「ワァー!」と[:びっくり:]
大成功です。指でやるときよりも、赤とか黄色とかの指標をしっかりと作る方が、目がきょろきょろしないようです。

150円で作った、この棒。
名前は「栗棒:クリボー」と名付けよう。
大量生産して、眼科医のみなさんに1000円で買ってもらえたら[:ひらめき:]

アバスチン

糖尿病などの病気では網膜の血管が詰まってしまい、眼球内の血流が不足します。血流の不足が一定期間持続すると、網膜は十分な血液や酸素、栄養分を欲するようになり、新しい血管を生やそうとします。(新生血管;しんせいけっかん)

新しい血管(新生血管)と聞くと、なんだか血流が回復して治ってしまうのでは??なんて思ってしまいますが、残念ながら、臨時で生えてくるような血管は、ほとんどができそこないの血管で、すぐに破れて大出血を起こすなどの問題を起こします。

眼科では、新生血管が生えてこないようにするために、レーザー治療で網膜を焼くなどの治療を行うことが一般的なのですが、最近は、抗VEGF薬という薬の注射薬が、新生血管が問題となる様々な病気に使われるようになりました。
VEGFとは、日本語では血管内皮細胞増殖因子と言いますが、酸素や血液が足りないと感じた網膜が産出するホルモンです。これが引き金となって、目の中に新生血管が発生し、弱い新生血管から出血してしまうなどといった病態につながります。抗VEGF薬を投与することで、上記のような悪い流れの始まりをストップさせることができます。

今日の午後は、糖尿病による新生血管緑内障という、重症の病気の72歳女性の手術を、準緊急で行いました。
2年ほど前に、両眼の糖尿病網膜症で硝子体手術を行い、しばらく経過の良かった方なのですが、残念ながら、最近は通院が途絶えてしまい、その間にさらに病気が進んでしまったようです。
火曜日に久しぶりに診察すると、眼圧と呼ばれる圧力が40?50mmHg(正常は20以下)と非常に高くなってしまっていました。
このままでは数日など、短期間で失明してしまうので、早急な手術が必要なのですが、目の中には無数の新生血管があり、そのような状態で手術をすると、手術中や手術後に新生血管から出血して、出血が止まらなくなってしまう事が多々あります。

火曜日に撮った写真です。茶目(瞳孔・虹彩)の部分には、普通は血管はないのですが、太くて赤い新生血管がしっかりと形成されています。隅角という目の中を流れる水の出口(下の写真の茶色と白の間のあたり)にも、赤い血管が形成されています。隅角に新生血管があると、水の出口がせまくなり、眼圧が上がってしまいます。

火曜日に緊急入院して頂き、アバスチンと呼ばれる抗VEGF薬を投与しました。

これは、今朝の同じ部位の写真です。茶目にあった赤い血管は全く見えなくなっています。このようになると手術が非常に安全に出来るので、本日の午後に手術をさせて頂きました。手術中には出血は起こらず、問題なく終了することができました。明日もキレイだといいのですが、それは明日診察をしてみないとですね。

アバスチンを使うようになって、血管新生緑内障の治療や手術の成績は、以前とは比べ物にならないほど良好になってきています。
大学病院レベルでは、同じような症例がいた場合には、アバスチンを使う事が当たり前になっているのですが、なぜだか、現時点の日本ではアバスチンを眼球に使用することは認可されていません。
薬を輸入するなどして、自由診療にする病院があったり、当院ではアバスチンは全例無料で使用しています。
非常に有用な薬で、海外では普通に使用され、日本でも数年前から大学病院をはじめとして当たり前のように使われています。目立った副作用もありません。(全くないわけではありませんが、血管新生緑内障などの病気の重大さを考えれば、比べるまでもないレベルです。)

未認可というと、不安になる患者様もいらっしゃいますし、日本では混合診療が認められていないので、たとえば当院でアバスチンを使用する場合には全て無料にするため、消毒薬や、注射器、針、手技量などの全てのコストが赤字になってしまいます。目の前の患者さんがいれば、治療しないわけにはいきません。日本の経済状況など、いろいろ難しいのは分かりますが、とってもいい薬なので、どうにかならないものかと・・・。

白内障手術 硝子体手術 眼科手術専門 山王台病院 附属 眼科内科クリニック
(茨城県 石岡市 小美玉市 かすみがうら市 土浦市 笠間市 鉾田市)