昨日は最大手の眼科医院の先生(若手2名)と3人で食事をしました。
いろいろと知識の交換ができてよかったです。
脳でみる!②
白内障手術後のピント(目標屈折値)
脳で見る!①で記載しましたが、基本的には網膜にうつる映像と、頭の中に思い浮かぶ映像には乖離があり、脳による画像処理が介入した後の映像を僕たちはみています。
今日は、診療で気を付けるべき、いくつかの具体的な事案のうち、ピントについて書いてみます。
白内障手術時に、近くと遠く、または遠近など、術後にどこにピントを合わせたいか、どこでメガネをうけいれるか。ということを僕たちは毎日患者さんと相談しています。多くの方はメガネの必要性を下げたいと考え、例えば遠方重視(裸眼で遠方視力1.0など)を希望される方がいたとします。手術が上手に終わって、検査値としては(理論上は)遠視も近視も乱視も全くない、網膜にぴったり焦点があう状態ができたとしても、実は患者さんによっては遠視や近視のメガネをかけた方が見える場合も多いのです。
もともと遠視や近視が強い方が手術を受けた場合に生じやすい現象なのですが、遠視や近視が強い人が、手術前に完全矯正の強いメガネをかけ続けていたかというと、そういう人は多くはありません。ほとんどの人が少し弱いメガネをかけていたり、お風呂上りなどメガネを外して過ごす時間があったり、メガネが嫌いでかなりのピンボケのまま過ごしている方もいます。こういう人の脳は、網膜に映ったピンボケの映像を補正(画像処理)してから、頭の中に描き出す能力にたけています。
この脳による映像の補正は手術後も長期的に機能します。
手術前の数十年間、遠視であったか近視であったかなどによって、映像を補正する方向性が異なり、術後のピントを同じように合わせても全く異なる結果を生む原因になるため、手術で遠方にあわせるか、近方に合わせるかということは、患者さんの希望のみではなく、もともとの状態をよく加味する必要があります。
強度遠視だった人が正視(遠方)にピントを合わせた場合
●ピントは遠方にあっているのに、思ったより近方も見える。(+2Dの遠視を我慢して見ていたような人は、頭の中で映像を2D分、近視側に補正できる能力があります。手術後にプラスマイナスゼロに合わせると、近くの50cm;2D分の補正能力で老眼鏡がなくても字が不自由なく読めたりします。殆どの方が単焦点レンズでもメガネ不要で生活できるようになるケースです。
●もとが重度の遠視の場合、術後に光学上は正視でも、遠くを見るときに少し近視のメガネをかけて+1D程度の遠視にしたほうが遠方視力が良好で運転しやすくなることが多くなります。(少し遠視側にピンボケした映像を脳で補正する方が慣れていて楽。)
強度遠視だった人が近方にピントを合わせた場合
●近くはよく見える。という意見が多くなります。
●遠くは異常に見えない。とクレームが必発です。(若いころから遠くが自然に見えていた脳の人は、近視側にピンボケした映像を補正して見る能力が鍛えられていない。)
強度近視だった人が、近視を弱めつつも近方にピントを残した場合
●ピントは近くにあっているのに、思ったより遠方も見える。(-10Dの近視で-10Dのメガネをかけている人は多くありません。多少弱い-8D程度のメガネをかけて、-2Dの近視が残った状態で生活をしている人が大多数です。 目を細めたり、脳の補正を利用したり。-2D分、近視側にピンボケした映像を補正することに慣れているので、手術で-2Dに合わせても思ったより遠くが見えてしまいます。術後にメガネがいらなくなることが、まずまず多いケースです。
●50cm;-2D程度にあわせると、少し近方が弱く感じる。字を読むときに+1~+2D程度の老眼鏡を追加して、さらに近視側に振った方が読書が楽なことが多い。
強度近視だった人が正視(遠方)にピントを合わせた場合
・遠くはクラクラするほどよく見える。という意見が多くなります。
・近くは異常に見えない。とクレームが必発です。(若いころから近くが自然に見えていた脳の人は、遠視側にピンボケした映像を補正する訓練をしていないので能力が乏しい)
簡単にまとめると、
・もともと強度遠視 ⇒ 術後は正視(遠方)狙いが無難
・もともと強度近視 ⇒ 術後は近方(30~50cm)狙いが無難
ということになります。
ライフスタイルに偏りがあって、例えば強度近視だけど仕事が運転手さんで、とにかく裸眼で運転したい。などという人は、強度近視から遠方へ逆転させることもできますが、術後慣れるまでにかなりの根性と覚悟が必要になります。
*除外例:強度近視でも、ハードコンタクトレンズによる完全矯正の時間が長く、デスクワーク時にコンタクトレンズの上から老眼鏡をかけていたような人は、上記の強度近視だった人には当てはまりません。
*脳も楽をしたがるようで、「補正をしなくても見えてきた」ということに気が付くと、補正する能力が衰えていきます。遠視から正視にした人は、術後早期は裸眼で新聞が読めますが、年単位では老眼鏡が必要になります。
若い人では、長期的な変化も考えて手術を行う必要があり、超高齢者で+5Dなどの強い遠視の人ですと、術後は正視希望でも、わざと+1Dを残してあげることも行っています。(余命の数年間、その方がよく見える。)