血管新生緑内障? 手術

今日のお昼は以下の手術を行いました。
・白内障手術 8件
・眼内レンズ交換 1件(当院術後パワーエラー)
・網膜剥離 1件
結構、件数が多かったですが、網膜剥離も初期・軽症で30分くらい。まず治せたかなと。スタッフがお昼休みに協力してくれたので、午後の外来にも無事間に合わせる事が出来ました。
眼内レンズ交換は、2週前の手術で-0.5D(2mにピント)を合わせる目標でしたが、-2.0D(50cmにピント)とズレてしまったため、久しぶりの交換となりました。当院で光眼軸や4次式の計算により、レンズ交換を要するパワーエラーは約1000分の1の確率と、良好な成績ですが、患者様にお手間をかけてしまうのは、申し訳ないと思っています。もっともっとよい成績を目指したいなと思います。手術は数分で終わり、明日のピントは期待できそうです。

血管新生緑内障 手術
血管新生緑内障は、虚血に続いて発生する新生血管が、房水の出口である隅角をふさいでしまい、眼圧が上がってしまう病気です。手術はほとんどの場合で、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)という方法が取られます。もとの出口を利用するのではなく、眼球の別の部位に穴をあけて、房水を排出する新しい流れ路を作ってあげる方法です。
(今年の春以降、出口の部分に人工の弁:バルブを取りつける手術が保険適応となります。その新しい手術については、別の機会に記載します。医学はどんどん進みますね!ワクワクします。)

線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)

手術の写真は上下反対の写真になります。ビデオモニターをデジカメで撮っているだけので、画質が悪くなっています。また、僕の手術は出来るだけまぶしくないように、顕微鏡のライトを一番弱くして行うので、暗い写真で、少し見にくいですが、ご理解下さい。(モニターではもっと暗くて、デジカメの感度を最大にして撮影したせいか、少し白っぽい写真になってしまいました。)

まず、仰向けに寝て、目薬の麻酔や消毒をして、目を開く器械をつけます。
目の上側に新しい穴を作くり、上まぶたでキズ口を隠した方が、感染症や水の貯留池(ブレブ)の形成が良好なため、通常は黒目の上方(写真では下方)で手術を行います。

左の写真は、黒目に糸をかけて、その糸を下方に引っ張って、手術がしやすいように、目の向きをつま先側に向けるようにします(右写真青矢印)。
次に、緑矢印のように、白目の表面の粘膜(結膜)に麻酔の注射をします。当院では血管新生緑内障の場合には、麻酔以外に、ボスミンという血管収縮薬を混ぜて出血を予防したり、アバスチンを混ぜてVEGFによる術後の癒着を予防するようにしています。麻酔が終わると、つい手術を急ぎたくなりますが、ここで数分じっと我慢することが重要です。ボスミンの効果が出てくるのを待ってから手術をしないと、出血が多くなります。この症例は全体で33分の手術時間でしたが、時間は関係ありません。薬が効くのを必ず待って出血を減らすことが重要です。


薬がきいて白目の血管が目だたなくなったら、結膜を切開して、強膜を露出させます。通常の緑内障手術ではこんなに出血しないのですが、これが新生血管緑内障の嫌なところです。ちょっと難しいのでイラストで。

灰色の強膜の表面に張っている、黄色の結膜を一回剥離する作業です。


専門的ですが、年齢の若い血管新生緑内障の患者様では、結膜が厚く、すぐに強い癒着が起こってきます。結膜の組織が厚いと、癒着をした場合に、レーザーで糸を切ると言う術後の処置が難しくなってしまう場合があります。僕は結膜が一定の厚みになるように、厚みを少し削る(トリミング)ようにしています。血管新生緑内障は、翌日など、早い時期からの管理がとても重要です。「今日はやりにくいから明日でいいや。」で、手遅れにならないように。


血管新生緑内障ではとくにしっかりと止血をして、強膜が露出した状態にします。


強膜に切り込みを入れて、水が流れるトンネル(強膜フラップ)を作成します。うーん。やはり出血が多いですね・・・。イメージ図で強膜(灰色)に切り込みをいれ、めくり上げるような処置です。


水の通り路の癒着を防ぐことが重要な手術です。10年以上前からですが、キズ口にマイトマイシンと呼ばれる抗がん剤の一種をキズ口に塗りこみ、癒着を防いで、安定した水の通り路が形成されるようすることが一般的になっています。左の写真は、マイトマイシンの液体をしみ込ませた、白いスポンジをキズ口に埋め込んでいます。
マイトマイシンの副作用として、組織が弱くなってしまうというものがあり、現在は薬の濃度や、塗りつける時間(3分程度)などは、多くの施設で一定化しています。右の写真は、水をかけて、マイトマイシンをきちんと洗い流しているところです。


強膜の切り込みを眼内まで進めて、眼球に穴を開けます。穴をあける部位を線維柱帯(せんいちゅうたい)と呼び、ココを切除して穴をあけるから、線維柱帯切除術になります。茶目(虹彩)も少し切開をして、水の通り路を広げます。
この状態になると、水が目の外に流れるようになるので、眼圧が下がります。ただだし、このままでは穴が大きすぎて、水が漏れ出しすぎて、目がすぐにペチャンコに凹んでしまいます。

そこで、

せっかく作った水の通り路ですが、再び糸で縫いつけて、水の逃げ路を狭くして、「僅かに水が漏れる。」という状態にします。
血管新生緑内障では、通常の緑内障と異なり、急に眼圧が下がり過ぎると、新生血管からの出血が起こってしまいます。
少し多めに糸で縫っておいて、しっかりと眼圧を保ちます。今回は5か所縫いました。癒着が進んで、水の通り路が狭くなって眼圧が上がりだしたら、すぐに糸を切っていく。術後はそんな方法をとっていきます。


糸の結び目が出ていると、痛みや感染などの問題が起こるため、結び目が組織の中に隠れるように調節します。硝子体手術を行ったあとの血管新生緑内障では、眼球の中がゼリー状の硝子体ではなく、やわらかい水に置換されているため、眼球から水が簡単に漏れ出し、ペコペコになってしまうので、糸で縫うなどの処置が難しくなります。


最後に、初めに剥離した結膜(図の黄色)を元通りに縫いつけて手術は終了です。緑矢印の部分に目の中から漏れ出した水が溜まって、プックリ膨れているのが分かりますか?この水の溜まり場を、ブレブなんて呼んでいます。

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