第53回 日本網膜硝子体学会総会

硝子体学会も無事に終わり、帰路についています。今日は新幹線「のぞみ」からブログを書いてみます。電車オタクではありませんが、新幹線「はやぶさ」にも乗ってみたいな。(不在にて数件の緊急診療をお断りしてしまいましたが、申し訳ありませんでした。)

53回 日本網膜硝子体学会総会
今回は「YAGレーザーによる術前処置を施した硝子体手術時の前嚢収縮の切除効率と安全性」という演題で発表をさせて頂きました。(⇒昨日のブログ参照
昨日、前嚢収縮によって、視力の低下、眼内レンズの性能の低下などを生じることを記載しましたが、実は前嚢収縮は患者さん側の症状・問題だけでなく、医師側にも問題を起こすことがあります。それは、患者さんの眼底(目の奥)が見えにくくなることです。
眼底検査をするときには、瞳孔を大きく広げる目薬を使用します。瞳孔が小さいと視界が狭く目の中を覗き込む時に邪魔だからです。同じように、前嚢収縮でもレンズの前面を覆ったリング状の混濁が邪魔をして、眼底が見えにくくなってしまいます。
特に糖尿病の方の白内障手術では前嚢収縮が起こりやすいのですが、糖尿病の方は白内障手術が終わっても一生涯、眼底検査での糖尿病網膜症(眼底出血)の評価を続ける必要があります。この時に、前嚢収縮があると眼底の隅っこが見えなくなってしまったり、診察が困難になってしまうので、YAGレーザーによる切開をしておくことが重要なのです。
しかし、実際には治療されずに前嚢収縮が進行し、将来的に糖尿病網膜症が悪化して硝子体手術(目の奥の手術)を受ける場合に、僕たちが手術中に目の中を覗くのに邪魔になってしまうことがあります。
本来、白内障術後に前嚢収縮が起こり始めた場合に、予防的にYAGレーザーで切開をしておけば、このような処置も不要なのですけどね・・・。なぜだか日本では治療をしない先生だらけなのです・・・。

硝子体手術をする場合に、眼底が見えにくいことは手術の安全性・成績に不利なるので、多くの講演や教科書では手術中に剪刃(ハサミ)を使って、混濁・収縮した前嚢を切除してから手術をすることが勧められていましたが、やってみるとレンズがずれてしまうリスクがあったりと、ハサミで処置をするのは結構難しい処置です。
ハサミで切開は難しい
ところが、手術前にYAGレーザーで切開を入れておくと、ものすごーく簡単に除去できちゃうことがわかりました。レンズの動揺もなく、チン氏帯にとても優しく手術できます。

前嚢収縮が広がると、手術中の眼底が見えやすくなります。

左が治療前、右が治療後
ワイドビューイングシステムでは、ある程度の前嚢収縮は関係なく手術できますが、術後診療含めて、視認性が改善するのは良いことですよね。
専門的ですが、混濁部を攝子で引っ張って除去しますが、治療後によく観察すると、多くの場合で前嚢組織は残ったままで、混濁した組織(筋線維芽細胞様化した水晶体上皮細胞)のみが除去できているようです。このためにチン氏帯への負担が少なくなるようです。
本当にものすごーく簡単に除去できるので、眼内レンズ眼に硝子体手術をする時には是非やってみてほしいのですが、写真では伝わりにくいので、動画をYOU TUBEにUPしておきます。
⇒手術動画はクリックしてください。

治療のサンプル写真です。
左:治療前、中央:YAGレーザー後、右:手術後
症例1

症例2

やっぱりキレイな方が診察も気持ちいいです。

学会では、相変わらず抗VEGF薬(ルセンティス・アイリーア・アバスチン)の治療成績の発表が多く、この数年同じ発表ばかり。「いい加減あきあきです・・・。」という部分もありましたが、個人的には、スペインからいらしたJeroni Nadal先生の講演はとても面白かったです。特殊な腫瘍性病変に対して、網膜に針糸を通して栄養血管を縫合して閉塞させてしまう。というものでした。網膜を縫うなんて、思いもよらないアイデアです。こういうアイデアから始まって次世代の治療へとつながっていくのでしょうね。

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